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石原信雄の時代を読む Vol.2

国政の行方を占う

国民生活に重大な影響を及ぼす「衆参のねじれ現象」

昨年7月の参議院議員選挙において、与党は歴史的な敗北を喫し、衆議院では与党が議席数の三分の二以上を有するものの、参議院では民主党を中心に野党が議席数の過半数を制する、いわゆる衆参両院のねじれ現象が生じることになりました。

その結果、内閣総理大臣の選任や予算については衆議院の優位性が認められるものの、通常の法律案については衆議院で可決されても、参議院で否決されれば成立しないことになります。

ただ、憲法59条の規定によって、参議院で否決された法律案も、衆議院で出席議員の三分の二以上の賛成があれば成立することになります。しかし、その規定の発動はいわば非常手段ともいうべきものであって、通常の法律案にこの規定を適用するのは容易なことではないと思われます。

昨年の臨時国会では、いわゆるテロ特措法が衆議院で可決された後、参議院で否決されたため、与党は会期の再延長によって衆議院で再議決を行いましたが、このようなケースをいつも期待することは困難と言わざるを得ません。

この通常国会でも、平成20年度予算案が審議されて、おそらく衆議院では与党の賛成を得て可決され、最終的に成立するものと思われますが、予算を執行する上でいわばこれと一体の関係にあるいわゆる予算関連法案については、参議院で承認が得られるもの以外は成立が期待できないことになります。

その結果、予算の執行に重大な支障を来たす恐れがあります。このようなねじれ現象、国会の変則的な形であるねじれ現象が今後も長く続けば、国民生活にも重大な影響が出てくるものと思われます。

 

対決主義を改め、合意を見いだす与野党協議を

私は、与党も野党も国民の立場に立って、国民生活にとって必要不可欠な法案は、与野党が十分協議して、合意点を見いだし、成立させてほしいと思っています。

その場合に心配されるのは、当面、国民に受けのよい法律案、例えば国民の負担を軽減するような内容の法律、あるいは国民に新たなサービスを提供するような内容の法律については、与野党の合意が得られやすいのですが、国民に負担をお願いするような内容の法律案、例えば増税法案などについては、与党も野党も国民の反対を恐れるあまり、議論を避けるのではないかということです。結果として、いま危機的状況にある国・地方の財政がいっそう窮迫する事態に追い込まれるのではないかと危惧(きぐ)されます。

私がこの機会にお願いしたいのは、与党の指導者も野党の指導者もこの国の将来を考え、本当の意味で国民の福祉を守っていけるような制度と仕組みを念頭において、必要があれば与党・野党が協議の上、増税法案であってもこれを成立させる努力をしてもらいたいということです。民意が二大政党を求める限り、衆参両院でのねじれ現象は今後も十分起こり得ることなのです。その時、二大政党が対決主義の姿勢を崩さない限り、いつになっても政治の動きは鈍いままで、国会運営の展望も開けないことになってしまいます。

戦後、我が国の国会は、いろいろな難しい局面を乗り越えてきましたが、今回のような衆参のねじれ現象の下で重要な政策を扱うことは初めての経験です。我が国の議会制民主主義の真価が問われているといってもいいと思います。近い将来、衆議院の総選挙が行われると思いますが、各政党には党利党略を超えた発想の中で、これからの厳しい社会状況を乗り越えられるような選択をしてもらいたいと願うものです。

2008(平成20)年1月掲載

 

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