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石原信雄の時代を読む Vol.7

政権交代の可能性とその問題点

現実味を帯びてきた政権交代

衆議院議員選挙がいよいよ8月30日に行われることが決まりました。現在のマスコミ報道によれば、与党・自民党の支持率が依然として低迷しており、一方の民主党の支持率がかなり高くなっています。したがって、このままの状況で選挙が行われれば、政権交代は起こり得ると言っていいと思います。

では、野党・民主党が政権を担当することになった場合、私たちはどのようなことに目配りしたらよいのでしょうか。

 

政権選択の判断にはマニフェストの検討が不可欠

そもそも民主主義の建前からすれば、特定の政党が半永久的に政権を担当する状況は望ましくありません。同じ政党による政権が長く続けば、どうしても政党と経済界との癒着、政党と官僚機構との癒着といったことが心配されます。

つまり、健全な民主主義を目指す立場からすれば、ときに野党が政権の座につくことはある意味で望ましいといえるでしょう。ただし、それはあくまでも原理原則について言えることであって、現在の政権党である自民党及び公明党に代わって、民主党中心の政権のほうがよいのか、そうではないのかについては、それぞれの政党が掲げるマニフェストの内容とその実現可能性について検討し、判断しなければならない事柄であります。

民主党は自民党に先駆けて、その政権公約であるマニフェスト(案)を発表しました。その中身を見ると、子ども手当ての創設であるとか、教育費にかかる国民負担の軽減であるとか、あるいは有料道路の無料化や道路特定財源の暫定税率の廃止など、いずれも国民の負担を軽くし、国民にメリットをもたらす内容が掲げられています。

いずれも実現されれば結構なことですが、問題はそれらの政策を実行するに当たって必要となる財源を、どのように調達するかでありましょう。その点について民主党は、主として既存の予算の見直し、規定経費の削減、とくに公務員の天下り先となっている特殊法人や独立行政法人、あるいは公益法人の廃止等によって財源を捻出することに大きな期待を寄せているようです。

しかし、特殊法人や独立行政法人、公益法人が現在行っている事務事業を廃止した場合、国民生活にどのような影響が及ぶかといったことが、今ひとつ明らかになっていません。これも一つの不安材料といえるでしょう。

 

官僚組織が持っている情報や知恵は政権運営に生かすべき

さらに民主党は、官僚組織には依存しない政権運営を行っていくことを強調しています。そこでは、現在の内閣制度の運用を大きく変えて、例えば「事務次官会議を廃止する」「100人規模の政治家を内閣に配置する」「党主導で国家戦略局という組織をつくって重要な政策決定はそこで行う」といったことを挙げています。

これらの点についても、具体的にどのような運用がなされるのかが今ひとつ分かりません。国家戦略局の構成メンバーはどういう人がなるのか、そこではどのようなことまで決めるのかなどが明らかになっていないのです。

私自身の長い経験から言えば、多くの政策が日々の行政の執行過程から着想されるものが多いという現状がある中で、その行政との関係を全く断ち切って政策決定が行われることになれば、その実効性の面で大いに不安が残ります。

いずれにしても、政治は官僚機構を信頼して、これを使っていくという関係が望ましいのです。重要な政策を政治が決定するのは当然ですが、その政策を実効性のあるものとするためには、官僚組織が持っている情報であるとか、官僚諸君の知恵を十分に活用していくべきであると考えます。

それを、与党との対立軸を際立たせるために、官僚機構を政策決定の過程から一切排除するということは、現実問題として多くの不安を引き起こす可能性があるのではないでしょうか。

 

この国の将来を真剣に考えて、冷静な判断を

いずれにしても、来るべき総選挙において、野党が勝利を収め、政権の座に着く可能性がかなり高くなっていることは事実のようです。願わくは野党が政権の座についた際には、何よりも我が国のおかれた政治的・経済的状況を踏まえて、国民生活に不安をもたらさないような現実的な政治を行ってもらいたいものです。

一方、長いあいだ政権政党として、国民に対して責任を負ってきた与党には、選挙を前にしてこれまでの主義主張と相反するような政策は掲げてほしくないと思います。長い目で見て、この国の将来を考えた政策を毅然として打ち出してもらいたいものです。その上で私たち国民は、この国の将来を真剣に考え、冷静な判断をすべきだろうと思っております。

2009(平成21)年8月掲載

 

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