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石原信雄の時代を読む Vol.13

未曽有の国難は政官財の知恵を結集してこそ乗り切れる

マグニチュード9.0の大規模地震

3月11日に東日本大震災が発生して、早くも2か月以上が過ぎました。これまでの経過を振り返ってみますと、いろいろな問題が明らかになってきております。

まずは、今回の大震災への政府の対応です。震災発生当日、菅総理は直ちに内閣に緊急災害対策本部を設置し、被災者の救援対策を中心に政府としての対応を開始しました。また、いち早く自衛隊の出動を要請し、ピーク時には10万人の自衛隊員が被災者の救援に当たりました。今回の大震災への対応に関して、私は政府の初動態勢は適切であったと考えています。しかし、その後の状況を見ておりますと、16年前の阪神淡路大震災のときに比べて明らかに政府の施策は遅れています。

緊急を要する非常立法措置、あるいは当面必要な補正予算の編成など、いずれも阪神淡路大震災時に比べてかなり遅れています。その原因の一つには、今回の震災の規模が極めて大きいということが挙げられます。今回はマグニチュード9.0という近年経験したことのない大規模な地震であったということ、そして被災地域が青森県から千葉県まで非常に広範囲にわたったということ、そして津波の規模が、これまでの想定をはるかに超える大規模なもので、そのために被害の状況が極めて深刻になってしまいました。さらにもう一つの問題は、福島第一原子力発電所が津波によってその冷却機能を失い、それへの対応が困難を極めているということです。

以上の要因が重なって、政府の対応が全体として遅れてしまったことは否定できません。と同時に今回の対策の遅れは、政府の対応の仕方、特に最高責任者である総理大臣の対応の仕方にも大きな問題があったのではないかと考えております。

 

政治主導にとらわれず政官一体となった取り組みを

菅総理大臣は、震災発生直後に自ら東京電力に乗り込み、直接、必要な指示を与えるなどの行動をとりました。最高責任者が陣頭に立って関係者を指揮することを積極的に評価する向きもあります。しかし私は、今回のような大規模災害については、最高責任者である総理大臣は広範な分野に及ぶ災害救援活動ごとに担当閣僚を定め、それぞれに全権を委ねて、総理大臣はむしろ一歩下がって災害全体の状況を把握して、必要な指示を与える形がよかったのではないかと思います。

特に津波対応と原発事故対応は全く異質のものです。これを総理一人で指揮することには、しょせん無理があります。今回のケースで言えば、総理大臣や官房長官がもっぱら原子力災害対策にかかわった結果、それ以外の救援活動が手薄になる傾向のあったことは否定できません。

震災発生後のもろもろの対応策が遅れ気味になっているもう一つの要因は、政治家と官僚組織との連携のまずさにもあると私は考えております。民主党政権は政権発足以来、いわゆる政治主導の形にこだわるあまり、各省レベルで言えば、政策の決定から実施過程においてすべて大臣以下の政務三役会議が中心に行っており、事務次官以下の官僚組織は直接それに参加しない形がとられています。そのため緊急を要する災害対応についても、内閣の緊急災害対策本部の方針が各省経由で末端に伝わるまでにどうしても時間がかかってしまいます。

私は災害救援活動、あるいは災害復興活動のように短期に実施する必要のある事業については、政治主導の形にとらわれるべきではないと思います。まさに政治と官僚組織が一体となって取り組むべきことではないでしょうか。

 

多彩な顔ぶれがそろった復興構想会議

政府は今後、被災地域の復興について具体的な計画策定を行うわけですが、菅総理はそのための私的諮問機関として、「東日本大震災復興構想会議」を立ち上げました。防衛大学校長の五百旗頭真(いおきべ・まこと)さんを中心に、各方面の有識者を委員に委嘱して、すでに議論を開始しています。伝えられるところによれば、6月中旬ころまでには一定の答申を出されるようであります。

この復興構想会議について言えば、関係者はたいへん熱心に現地視察を行い、休日返上で議論をしていただいておりますので、そのご努力には敬意を表します。しかし私は、この会議は委員の数が多過ぎるのではないかと思っています。委員の数が多ければ必然的に意見集約に時間がかかるようになってしまうからです。

また、委員の顔ぶれを見ますと、それぞれの分野での著名な方々が大勢入っておられます。哲学者、作家、評論家、建築学者と非常に多彩でありますが、その中に行政実務の経験者はほとんどおりません(達増拓也・岩手県知事は外務省出身)。このことが復興ビジョン(答申)提示後の、実現性の観点で一抹の不安を感じざるを得ないところであります。

復興構想会議には、全体会議の下部組織として検討部会ができていますので、双方の連携を密にすることで実務面への影響を少なくしてほしいと思っています。

 

与野党の思惑を超えた国会運営が望まれる

これから本格的に復興対策が講じられていくわけですが、その復興体制をつくるに当たって、依然として関係法律ができておりません。復興対策基本法や、その内容を定める復興特例法等々の多くの立法措置、またそれに伴う第二次補正予算が必要になってきます。これを実施するに当たっては当然国会の承認が必要となりますが、その国会は現在、衆議院・参議院がねじれ状態になっています。そのような事情があってか、政府の側にも野党の側にも、これから実施すべき復興対策については、さまざまな思惑があるようです。

当然、菅内閣としては必要な復興計画を定め、そのための予算措置、立法措置を国会に求めることになりますが、野党のほうにはこの復興関連の予算法律案等について反対論が少なくありません。

反対論の中身をみますと、内容面で不十分であるとか財源の捻出方法について意見があるとかの面で反対する向きもありますが、一方で政局がらみのものもあります。被災地のことを考えれば、一刻も早く必要な法律・予算を成立させるべきであるけれども、そのことが菅内閣の延命に手を貸すことになるのではないか、それはこれまで野党が内閣の退陣を求めてきた路線に反するのではないかという意見です。

今回の大災害では、被災地の皆さんが塗炭の苦しみを味わっているわけですから、政府が決めた対応の、その内容について意見を言うことは野党として当然あっていいと思いますが、その対策そのものを進めることが、結果的に現内閣の延命につながるがゆえに反対だという政局がらみの姿勢は絶対に避けてもらいたいものです。健全野党として、国民に対して責任を負う野党として、そのような行動は厳に避けていただきたいと思います。

一方、与党は必要な予算や法律案を準備して野党に協力を求めるわけでありますが、野党には、例えば子ども手当の問題など、既定予算の見直しについての強い意見があります。与党とすれば、選挙の際の公約、マニフェストの重要部分については変えたくないという気持ちがあることは分かります。しかし、与党として被災地のためにどうしても必要な予算や法律案を早く通さなければならないというのであれば、現実に衆参両院がねじれ現象になっている以上、そこは自分たちのこれまでの主張にこだわることなく、大胆に野党の意見も取り入れて復興対策を急ぐべきではないかと思います。
今回の復興対策にかかわる国会の対応では、我が国の議会制民主主義の真価が問われることになりそうです。

 

復興事業の主体はあくまでも地方自治体

今後、復興計画の内容が本格的に論議されていきます。この点について、私が特に申し上げたいことは、復興事業の実施主体はあくまでも地方自治体であるべきだということです。いやしくも、今回の災害の規模が大きいことや、特殊な要因があるということをもって、中央政府が直轄でことを進めることは基本的にあってはならないと思います。

もちろん瓦礫(がれき)の処理等の困難な問題については、実施主体である地方自治体の委託を受けて中央政府が全面的に支援をするとか、財源的に、あるいは実行面で支援をするということは大いにやってほしいと思います。しかし、事業主体はあくまでも都道府県であり市町村であるべきなので、復興計画は各地方が策定するものをベースに、地方の意見を中心に作っていくべきだと考えます。

 

現行の法律・制度に制約されることのない特区制度の導入を

また、復興事業の実施に関しては、幅広い特例措置が必要になります。

今回、大津波に襲われた各地域の状況を見ますと、地形的に従来のまちをそのまま復興するのは無理だと思われる箇所がたくさんあります。原子力発電所の周辺地域については、原発の安定化が達成された後、どのような地域に復興するかという問題も出てまいります。

漁港地域においては、すべてが流されてしまったために、土地の境界も分からなくなってしまったところがありますし、地盤沈下で水没したままのところもあります。このような困難な問題を扱っていくためには、もろもろの特例措置が必要になってくると思います。

いずれにしても特例措置の内容は非常に幅広くなると思いますが、それぞれの地域が存続できるように、そして将来、住民が夢を持って暮らせるようにするためには、現行の法律・制度に制約されることなく、よりダイナミックな施策が必要になってくるでしょう。そのためにも、私はいわゆる特区制度を幅広く認めるべきであろうと考えます。

公共施設の整備にしても、農業・漁業、中小企業の復興にしても、金融面、税制面、財政面で、これまでにない手厚い支援措置が必要になると思います。特に今回の被災地域である地方自治体は、もともと財政力の弱いところが多かったわけでありますから、私は各般の特例措置を講ずるに当たっては、関係地方自治体の財政負担を極力軽減できるように立法上、制度上の大幅な特例、あるいは地方債の発行についての特例、そしてまたそれらを網羅して、それぞれの地方自治体の財政負担を軽減するための地方交付税の措置などが総合的に実施される必要があると思います。

 

復興財源は臨時的な増税で賄う

いずれにしても、今回の大震災の復旧・復興に当たっては、巨額の財政負担が発生することは間違いありません。となれば、その復興事業の実施に要する財源をどのように調達するかということが切実な問題になってまいります。阪神淡路大震災のときも多くの特例措置を講じましたが、基本的に当時は必要な財源は国債の増発で賄いました。今と比べますと、まだまだ我が国の財政にも国債発行余力が残っていたという事情もありました。

しかし、今回は状況がかなり違います。我が国はこれまでの長い間の不況対策その他の関係で、国債、地方債の増発を重ねた結果、現在の国債・地方債の発行残高は1000兆円を超すところまでに至っております。これは我が国のGDPの2倍を超す規模であり、先進各国の中で飛び抜けて財政状態が悪くなっていることを示しています。したがって、今回の復興に要する財源を、さらに国債・地方債で賄うということには大きな問題があります。

そこで議論されているのは、既存の予算の中で緊急を要しないものを振り替えたらどうかという意見です。具体的にいえば、子ども手当などはこの際廃止して震災復興に充てたらどうかとか、あるいは農家の戸別所得補償とか、有料道路の無料化とか、必ずしも緊急を要しない予算については、極力これを復興財源に振り替えるべきという意見です。

さらに、この機会に特別会計の各種の積立金をもう一度洗い直して、これを取り崩して財源に充ててはどうかという意見もあります。しかし私は、すでに民主党政権になってから、予算編成においていわゆる霞ヶ関埋蔵金の取り崩しということで、これまでの基金等をかなり使い果たしていますので、基金等の取り崩しに多くは期待できないと思います。

そこで問題になってくるのは、しからば、それ以外の財源として増税を行うかどうかという議論です。巨額の災害復興のための公債の償還財源として、この際、国民に負担をお願いするという意味で、臨時的な増税を行うべきとの意見がかなり強く出ています。私もこれには賛成です。

これ以上財政を悪化させないためにも、臨時的な増税は行うことはやむをえないと思います。その際、具体的にどのような税目で増税を行うかについて、さまざまな議論がありますが、やはり相当規模の財源を求めるということになれば、消費税の税率引き上げ、あるいは所得税の税率の引き上げが必要ではないでしょうか。

一部に、法人税の税率引き上げを唱える意見がありますが、私は法人税の増税はただでさえ景気に対して不安があるわけですから、これ以上景気に悪影響を与えるような形での法人課税の強化は避けるべきだと考えます。

企業の業績が悪くなれば、復興にも悪影響が及びますし、何よりも雇用対策に悪影響が出ます。企業課税には、それを強化すれば企業の雇用意欲を失わせるという影響が必ず生じますから、この点はよほど慎重に考えなければいけないと思います。

いずれにしても、我が国の財政の現状を正視すれば、これ以上借金を増やすことで今回の復興対策を行うのは極めて危険です。我々の子や孫の世代に大変な負担を残すことになり、ひいては日本の国際的な信用そのものを失ってしまうおそれもあります。

 

福島原発の事故で問われる今後の原子力政策

今回の震災に際しては、もう一つの大きな問題があります。それは原発事故への対応です。東京電力をはじめ、政府関係者一丸となって、いま福島第一原子力発電所の安定化に向けて必死の努力を続けています。これについては、何としても事態のこれ以上の悪化を防がなければなりません。

そしてこのことに関連して、我が国の原子力政策を今後どうするかが問われています。先般、政府の強い要請を受けて、浜岡原子力発電所が全面的に運転を停止しました。これは、浜岡原発が近く予想される東海地震の震源域の中心にあるという特殊事情もあり、政府が特に中部電力に対して発電停止を要請したことを受けたものであります。

政府は、「他の地域については、現在の原子力発電の運転を継続することについて支障はない」ということも同時に明らかにしています。しかし、事柄はそう簡単ではありません。我が国は現在、全国に45基の原子力発電所を所有しています。このうち現在稼働中のものは22基あります。また、すでに停止しているものが9つあります。残る14基は現在、定期点検中です。つまり、現在は全体の約半分が止まっている状況です。

ご承知のように、我が国は資源に恵まれない国です。少し前までは、主として水力、あるいは化石燃料に電力供給を頼ってきましたが、それだけでは必要な電力が賄えないということで、長い時間をかけて原子力発電を強化してきました。

原子力発電には、放射能の危険を伴いながらも、十分な安全対策を講ずることによって、よりコストの安い電力を安定的に供給できるというメリットがあります。そのため我が国は、先進国の中でも最も熱心に原子力発電所の建設を進めてきたわけですが、今回の福島原発の事故を契機として、今後、原子力発電所をどうするのかといったことが極めて大きな課題になってまいります。

 

エネルギー政策の転換は国民生活の将来像にもかかわる重要課題

一部には、この機会に原子力発電を一切廃止して、すべてをそれ例外のエネルギー、特に自然エネルギー中心に切り替えるべきであるという意見があります。これは一つの選択肢です。ただしその場合には、現在の発電量を確保できるのかという問題が生じます。

それに何と言っても、現状においては自然エネルギーが極めてコスト高だということもあります。その点をどうするのか。もし、今後は原子力発電を抑えるということになれば、我が国の産業の立地条件そのものの前提が崩れてしまいます。主要な輸出産業が国際競争力を維持できなくなります。

つまり高い電気料金をかけて、乏しい電力量の中でモノを生産するという状況に追い込まれますので、これまで日本経済を支えてきた輸出産業の根幹は揺らいでしまいます。またこの問題は、同時に我が国の国民の生活水準、所得水準の引き下げにもつながるわけですし、当面は企業活動の低下から雇用問題が一層深刻になるという懸念もあります。

この原子力発電所をどうするのか、我が国のエネルギー政策をどうするのかということは、同時に我が国の産業立地政策をどうするのかということ、ひいてはこれからの我が国の国民生活の将来像をどう描くのかという問題にまで結びつく、たいへん深刻な課題でもあります。

私は当面、福島原発の安定化のためにあらゆる努力を傾注すべきと思いますが、同時に、現在運転中の原子力発電所については、一層の安全対策を講じながら運転を継続するという選択肢しかないと考えます。現在、定期点検中のために停止している原子力発電所については、すでに検査が終了しているものは、一層の安全対策を講ずるという前提で、各自治体が運転再開を受け入れられるような法令面、指導面での措置を政府の責任において講ずることが必要であると思います。

いずれにしましても、今回の大震災によって、未曾有の国難に直面しているのですから、国民がその総力を結集し、政も官も財もその知恵を総動員してこれに取り組まなければならないことは間違いありません。

 

再び首都機能移転問題を議論の俎上(そじょう)に

この機会に、もう一つ触れておきたいことがあります。それは首都機能移転問題についてです。かつて平成2年に、衆参両院は我が国の将来に備えて首都機能を移転すべしという国会決議を行いました。その決議は今も生きております。この決議に関連して、政府は首都機能移転のための調査会を設置し、移転候補地の選定作業も行いました。しかしその後、東京都などの反対意見もあり、財源負担の問題もあって、現在この議論は休止状態になっています。

しかし、今回の大地震に遭遇し、3月11日の東京地域は直接の震災被害は少なかったにもかかわらず、交通機関はまひ状態に陥ってしまいました。いわんやこの東京で、直下型地震が発生すれば、その混乱状況は想像もできないくらい深刻なものになるおそれがあります。

地震学者は、首都圏の直下型地震が近い将来起こり得ると考えなければいけないと警告しています。私は今回の大震災を契機に、この国の安全を確保するためにも、もう一度、首都機能移転問題について考え直す必要があるのではないかと考えております。

2011(平成23)年5月掲載

 

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