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石原信雄の時代を読む Vol.15

“大阪都構想”で問われることとなった地方制度の在り方

大阪W選挙に圧勝した大阪維新の会

昨年11月27日、大阪府の知事選挙と大阪市の市長選挙が同時に行われ、大阪維新の会の代表である橋下徹さんと同幹事長の松井一郎さんが圧倒的な支持を得て当選されました。今回の大阪府知事と大阪市長の同時選挙は、現在の大阪府と大阪市および堺市を対象に、いわば“大阪都”をつくるということを最大のテーマとして行われたものです。

前大阪府知事の橋下さんは、これまで大阪府と大阪市の二重行政の弊害をたびたび指摘してきました。これを抜本的に解消する手段として、大阪府と大阪市および堺市を解体して、新しい“大阪都”を実現しようというのが“大阪都構想”です。具体的には、現在の大阪市と堺市の行政区を再編成して基礎的自治体とし、政令市の大阪市と堺市がもっている広域的な機能は大阪府に一元化するというものであります。

 

一般の府県とは異なる東京都の制度

大阪都構想のモデルは現在の東京都政にあります。すなわち東京都は、現東京23区である旧東京市の区域と、旧東京府が一つになった東京都という制度であり、一般の府県とは違った構成になっています。

東京都では、23区区域の広域行政は東京都が担当し、23区は特別区として限られた範囲の市民行政を担当しています。そして広域行政を都が担当することと関連して、23区の区域内については、一般の市町村が課税している法人住民税及び固定資産税は東京都が課税しています。そして特別区の区域では相互間の財政調整を、東京都が特別区財政調整交付金という形で、法人住民税や固定資産税の一部を交付する仕組みになっています。

このような東京都政は、昭和18年の戦時体制下に特例として出来たものであり、昭和22年に地方自治法が制定された際も、東京都については従前の東京都政をそのまま引き継ぐ形となりました。

今後、大阪都構想を進めるとするならば、いま、政令市が存在する区域について大阪府が課税上の特例をするのかどうか、そして、その大阪都構想の下における基礎自治体の権限をどこまで認めるのかが問題になってくるでしょう。

 

地方分権改革の流れと異なる大阪都構想

大阪都構想については、政府与党や自民党をはじめとする野党各党も今のところ好意的な対応を示しています。しかし、この問題は現在の都道府県、市町村という二層制の地方自治制度を大きく変える要因をはらんでいます。

従来の政府の考え方では、住民生活に身近な行政はなるべく基礎自治体である市町村に責任をもってもらう。一方、広域自治体である都道府県は、市町村では処理できない広域的な行政を担当するという考え方に立っております。ですから、これまでの地方制度改革では、府県の権限をなるべく市町村に下ろしていくという方向で改革がなされていたわけです。

しかし、今回の大阪都構想では、現在、大阪市や堺市が担当する広域的な仕事を、大阪府に取り上げるという面があります。その意味では、これまでの地方分権改革の流れとはやや異なる面があります。

 

大阪都構想の問題は地方制度全体の問題

二重行政の解消は大変必要であります。これまで二重行政が指摘された場合は、都道府県がその仕事を市町村に委ねるという形で改革を進めてきたわけですが、今回の大阪都構想では、むしろ政令市がもっている広域的な機能を府のほうに取り上げるという要素がありますから、その辺をどのように理解するのか、これまでの地方分権の流れと異なる面がありますので、この点をどのように考えたらよいのかという問題が出てまいります。

さらに言えば、これまでは地方制度調査会を中心に、今後の地方制度の在り方は「現在の都道府県は解体して基本的に市町村中心の行政体制にする」「広域的な仕事は各ブロック単位のいわゆる道州制で解決しよう」という流れになっていたわけです。

また、今回の大阪都構想は大阪だけの問題として提起されており、地方自治制度の中でそういった特定地域の選択を認めるべきかどうかという問題として論じられています。しかし、これは当然、大阪だけの問題ではなくて、中央政府と都道府県と市町村の役割分担の関係をどう見直していくか、そうした中で基礎的自治体としての市町村がなるべく地域行政の中心になるという考え方と、その市町村が政令市のように巨大な都市になった場合に、その都市の中の分権をどうするのかという問題も含んでおります。

いずれにしても、大阪都構想は地方制度の組み立て方を大きく変える問題でありますから、地方制度調査会の場でしっかりと議論をしてもらいたいと思います。

現在は圧倒的な勝利を収めた橋下市長の動向が大きく脚光を浴びており、各政党ともこれに好意的な対応を示していますが、ことは地方制度の組み立て方をどうするかという我が国の地方自治にとって非常に重要な問題を含んでいますから、第三者を交えて冷静な議論をした上で、この大阪都構想をどう実現していくかを考えるべきであろうと思います。

 

強い指導者に対する期待が大阪都構想を顕在化させた

それにしても、今回の大阪都構想が大きな脚光を浴びるに至ったのは、橋下徹さんというたいへん強力なリーダーシップの持ち主の登場に影響されるところが大であります。私は今回の大阪府知事選挙、大阪市長選挙の結果を見て、橋下さんが掲げる大阪都構想の是非もさることながら、このところ関西経済界の凋落(ちょうらく)を憂える声が強くなっている中で、橋下さんという強力な個性の持ち主が、その強力なリーダーシップによって地域を変えてくれるのではないか、地域を活性化してくれるのではないかという期待、要するに強い指導者に対する期待が、高い得票率につながったのではないかと思っています。

もっとも、このことは国政全体についてもいえることであります。閉塞状態にある我が国の現状を打破するためには、強力な指導者が望まれるという国民的な期待が、大阪の地でこのような形で現れたと見ることもできます。

いずれにしても大阪都構想をめぐっては、我が国の地方制度を今後どのような形に変えていくことが望ましいのか、その中でこれまで進めてきた市町村の強化策はそれでよいのかどうか、更に広域行政の主体としての道州制をどうするのか、こういった問題に対する回答が迫られているのだと思います。

 

2012(平成24)年1月掲載

 

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