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石原信雄の世相診断 Vol.4

米国同時多発テロ事件と日本の対応

9月11日にニューヨークとワシントンで起こった同時多発テロは、アメリカ国民のみならず全世界の人たちに大きな衝撃を与えました。私はたまたまNHKのニュースを見ているときに、あの世界貿易センタービルにハイジャックされた飛行機が激突する場面を目にして、たいへん大きなショックを受けました。

これまでにも数多くのハイジャック事件がありましたが、その大部分は、ハイジャック犯が目的を達成するために飛行機をある地点まで移動させ、要求が通れば乗客を解放するというもので、少なくとも一般市民を道連れにするような凶悪な事件ではありませんでした。

今回のテロ事件の特異性は、ハイジャック犯が目的を達成するために関係のない多数の市民を巻き添えにしたことであり、この点がまことに許し難い、極めて残虐な事件でありました。

ところで、このテロ事件について私は二つの点で、これから全世界の人たちが大いに議論し、考えていかなければならない問題を含んでいると思います。

一つは、より基本的な問題ですけれども、なぜこのような凶悪な事件が起こったのか。なぜ、ハイジャック犯は自分の命を捨てて、多くの市民を巻き添えにし、あのような残虐な行動に出たのかということです。

報道によれば、彼らはイスラム原理主義者であるビンラディン氏の指揮のもとに行動したといわれていますが、なぜ、イスラム原理主義者があのようなテロを起こしたのか、その動機は何であったのかをじっくり考えてみる必要があると思います。

テロを抑えるためには、あらゆる手段を講じなければなりませんが、いかに力ずくで抑えようとしても、あのような行動を起こそうとする人たちがこの地球上に存在する限りは、テロを100%防ぐことは不可能であると思います。

そういう意味で、今回のテロ実行者たち及び彼らを背後で操っているイスラム原理主義の指導者が、なぜ、ああいう行動をとったのか。また、原因と称されるものが取り除かれればテロ行為はしないということになるのか。その辺を解明することが重要だと思います。

一部には、今回のテロの背後にはパレスティナ人に対するイスラエルの行動があり、これらに対するアメリカの態度と関係があるとの説を唱える人もおりますが、いずれにしましても、イスラム原理主義者が過激な行動に出るその根本の原因、その精神構造といいましょうか、物の考え方まで掘り下げていかないと、テロを100%抑えることは不可能ではないかと思います。

もう一つの点は、今回のようなテロ行為に対しては、国際社会が共同歩調をとらなければ、これを防止することはできないという意味で、緊密な連携のもとに支援活動を行う必要があるということです。

アメリカは、テロを撲滅するために、あるいはテロを支援している組織そのものを壊滅させるために、断固たる措置をとろうとしています。その具体的な手段として、テロ実行犯を指揮していると考えられるビンラディン氏の拘束逮捕を目指して軍事行動をとろうとしているわけですが、このアメリカの行動は、テロ行為は人類に対する敵対行為であり、国際社会が力を合わせてこれを排除しなければならないという趣旨の国連決議に基づいています。

その限りにおいては、アメリカの行動は国連の考え方あるいは世界の人たちの考え方に沿ったものであり、各国特にNATO諸国や我が国のようにアメリカと同盟関係をもっている国を中心に、アメリカに対して積極的な協力をしようという動きが強まってきています。私は大いに結構だと思います。

ただ、わが国では現在、国会でも論議が行われておりますけれども、アメリカの軍事行動に対して日本が支援活動を行うことについて、政党によっても、また、世論やマスコミの論調などを見ても、意見は大きく分かれています。

実は、10年前の湾岸戦争のときにも同じような問題がありました。イラクによるクウェートの進攻を排除するために、多国籍軍が軍事行動を起こしたのですが、これに対してわが国はどのような協力をするかをめぐって、大きな議論がありました。

その結果、わが国は、資金面では各国の中で最も多額の協力をしましたけれども、人的な面では、掃海艇の派遣などはあったものの、全体として、世界の人たちが認めるような貢献はできませんでした。このことが、国際紛争におけるわが国の協力の在り方をめぐって、その後も論議の種になってきました。そして今回、同時多発テロ事件に関連して再び同様の論議がなされているわけです。

私は、日本が国際社会の一員として、テロ撲滅に対する国際的な協力は絶対に必要であり、また、米軍なり国連軍なりの軍事行動に対して一定の支援活動をするということも必要であると思います。

その際に、わが国の協力の仕方や協力の範囲について、いろいろな議論がありますが、人的な貢献という面では、日ごろから軍事的な訓練を積んでいる自衛隊が支援活動に当たる必要があると思います。一部の人の間では、国際協力の問題でなぜ自衛隊なんだと、自衛隊でなくてもいいのではないか、シビリアンの協力でいいではないかという意見が今でも強いわけですが、現実に効果的な協力をするということになれば、自衛隊のような組織で動ける機関を活用することが必要です。

もちろん、わが国は憲法第9条によって、武力行使を目的として海外で自衛隊を活用することは許されておりません。あくまで武力行使に当たらない範囲で国際的な貢献をするということですが、要は、これまでの国内の議論はあまりにも国際常識からかけ離れていると非難されておりますので、その点を踏まえて今回は、湾岸戦争のときの轍(てつ)を踏まないように対応してくれるはずです。

いずれにしても、この問題については、現在開かれております国会の場で論議されていて、必要な支援を効果的に行うための法律改正等もなされると思いますので、私は、湾岸戦争のときのような国際的な批判を受けないように対応してほしいと思います。

2001(平成13)年10月4日・インタビュー

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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