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石原信雄の世相診断 Vol.16

大詰めを迎えた市町村合併

21世紀の地方行政の在り方を考える上で非常に大きな影響をもつ市町村合併の動きが、いよいよ大詰めを迎えています。すなわち、2000(平成12)年の4月1日に施行された市町村合併特例法に基づく合併申請の期限が、来年(2005(平成17)年)の3月31日までとされているからです。

この市町村合併特例法は、21世紀の地方行政を担う基礎的自治体としての市町村の行財政能力を高めるために、市町村が合併しようとする場合は、合併を促進するために行政上、財政上の特例措置を定めたものです。去る第159回国会で一部改正が行われましたが、基本的には来年の3月31日までに関係市町村の合併議決が行われたものについて適用されます。

ご案内のように、2000(平成12)年4月1日に施行された地方分権一括法は、21世紀のわが国の行政は国から地方へ、特に基礎的自治体としての市町村になるべく多くの権限を移すことによって、住民生活にかかわる行政は住民の身近な段階で処理できるようにしようという趣旨ですが、一方、地方行財政を取り巻く現在の状況は、誠に厳しいものがあります。

 

合併によって市町村の対応能力を高める

少子化、高齢化の傾向は、一向に収まりません。また、わが国経済の状況はひところの最悪の事態は脱却しましたが、かつての高度経済成長時代のような好況感は出てきておりません。そのために、わが国の財政は中央政府のレベルでも地方自治体のレベルでも、文字どおり危機的な状況になっています。

こうした中で、政府は、財政再建をなんとか軌道に乗せたいと、行政のあらゆる分野にわたって検討を行っています。特に地方財政については、いわゆる三位一体改革の断行という形で国から地方に交付される補助金を廃止し、それに見合って、国税から地方税への税源移譲を行い、同時に地方交付税制度についてもこれを見直し、地方自治体が地域の問題については自らの判断と責任で行えるよう改めようとしています。

三位一体改革は、地方自治体の自主性の向上を目指すもの、すなわち地方分権を推進するねらいをもっており、その地域の行政について、それぞれの自治体が責任をもつ体制を確立しようとするものです。そうすることによって安易な行財政運営を改め、将来的には財政の立て直しに資する、つまり三位一体改革がもたらす影響としては、行財政運営の面では、従来よりも地方自治体の責任体制が強化されると考えるべきでしょう。

これらの要素を考え合わせますと、小規模の市町村は、住民の福祉を守るための活動をする上で、従来のままでは多くの困難が見込まれると考えられます。その困難を少しでも回避するために、合併によって市町村の対応能力を高めようというのが、現在進められている平成の大合併です。

 

悔いを千載に残すことがないように

市町村の合併について、現在の動向をみますと、今年(2004(平成16)年)11月8日現在、約3,000市町村のうち、法定協議会を設置して合併を目指している市町村数は全体の約60%に達しています。市町村の半数以上の団体が何らかの形で合併問題に取り組んでいると言えます。これから年度末にかけて、続々と新しい市町村が誕生するものと思われます。

気になるのは、連日のように法定協議会からの脱落、あるいは協議会そのものの解消といった記事が新聞紙面を賑(にぎ)わしていることです。せっかく地域の将来を考えて法定協議会をスタートさせ、いよいよ合併の大詰めを迎えている段階で、合併話が破綻(はたん)してしまった団体、あるいは破綻しようとしている団体が少なくありません。破綻の原因としては、新しい市町村の役所の位置をどうするか、あるいは市町村の名称をどうするかをめぐって関係者の意見が一致しなかったというようなことが伝えられています。

私は、せっかく法定協議会がスタートしたのに、役所の位置や市町村の名称の問題で合併話が破綻することは誠に残念なことであり、なんとしても避けてもらいたい、克服してもらいたいと思います。そのような問題で合併話が破綻した場合は、まさに悔いを千載に残すことになると思うからです。そして、表には出ませんが、合併が破綻する裏の事情として関係者の身分にかかわる思惑があるともいわれています。

たとえば、市町村の首長や議会の議員が合併に伴ってその身分を失うことになるわけですが、そのことが一つの障害になって合併話が壊れていると指摘する向きも少なくありません。住民の将来を考えて合併の協議が行われている際に、旧市町村の首長や議員がその地位に恋々とする余り、合併そのものを破綻させる結果を招くのだとしたら、これは許しがたいことです。

表向きには、これを合併反対の理由として表明する人はいませんが、本音のところでそういった事情があると指摘する向きも少なくないのです。合併が難航している地域においては、住民がその難航している原因を冷静に分析して、地域の将来のために積極的な行動を起こすべきであると私は思います。

 

都道府県は市町村に支援と協力を

合併問題が大詰めを迎えると、都道府県の姿勢が大きく影響してきます。今回の平成の大合併については、昭和の大合併のときと違い、都道府県の多くは積極的に合併に関与することを避けてきました。本来、市町村合併は関係市町村の住民が最終的に判断する問題であり、都道府県がいわば上位団体として干渉するのは望ましくないという考え方から、合併問題については、知事や都道府県当局は一歩下がってこれをみているというケースが多いのです。

しかし、地域の将来を考えた場合、広域自治体としての都道府県の立場から、やはり望ましい姿というものは当然あるわけです。合併が難航している場合には、少なくとも広域自治体としての都道府県知事、あるいは担当者が合併の成功に向けてアドバイスをしたり積極的に協力したりするのは望ましいことであると思います。

合併話が難航しているのに第三者的に傍観している態度は、広域自治体としての都道府県のとるべき態度ではないと私は考えております。市町村が生みの苦しみの中でもがいているのを黙ってみているのではなく、苦しみを和らげるような救いの手を差し伸べるべきでしょう。権力的な干渉はいけませんが、地域住民のために支援協力することは都道府県の責務であると思います。

ともあれ、あと5か月で今回の平成の大合併は一つの区切りを迎えます。現在の市町村を取り巻く行財政の諸条件を考えて、住民の福祉を守り高めていくために悔いが残らない対応を望んで止(や)みません。

2004(平成16)年12月掲載

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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