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石原信雄の世相診断 Vol.17

「自治体中心の時代」に

今年は「自治体中心の時代」に移行する年
時代や状況の変化に即応した広報広聴活動を

新年明けましておめでとうございます。

2005(平成17)年が私たちにとって素晴らしい年となりますよう、お祈り申し上げます。

2004(平成16)年を振り返ると、何といっても、多くの災害に見舞われた年であったといえます。かつてない猛暑が続いた後で、多くの台風が日本列島に上陸し、その後の長雨や、さらには、10月の新潟県中越地震によって、多くの方が被害に遭われました。まさに、天変地異に振り回された年でありました。

このような災害がなぜ、集中したのか。近年の異常気象について、一部には地球温暖化の影響であるという指摘もあります。改めて私たちは、地球温暖化を防止するための国際条約である京都議定書の確実な実施に向けて努力していかなければならないことを強く感じます。そして、願わくば、このような災害の発生は、昨年限りにしたいものです。

 

17年度予算は財政健全化への第一歩

2005(平成17)年度の国や地方自治体の行財政活動の前提となる国の予算案が、昨年末に決定しました。予算案の特色として挙げられるのは、財政再建に向けての第一歩になると考えられている、いわゆる定率減税の縮小が行われたことです。また、歳出全般にわたって厳しい見直しも図られました。その意味で、平成17年度予算は、前年度に続いての緊縮型予算であり、また、財政健全化への第一歩を印した予算であるといえます。各種行政施策も見直しが行われたほか、所得税や住民税をはじめとして税負担が若干増加する見通しです。それだけに来年度は、国にとって、地方にとって、また国民にとって、厳しい年となることは避けられないでしょう。

私は、わが国の危機的な財政状況を考えると、今回の政府の方針は妥当なものであるとみています。一部では、景気動向が微妙なところから、増税は行うべきではないという意見もありますが、私は経済情勢がある程度安定しているときにこそ、税負担の見直しを行うべきであると思っています。もちろん、その前提として歳出の無駄を徹底的に省かなければならないことは言うまでもありません。

今回決まった国の予算案を前提にした場合、平成17年度の地方自治体の行財政運営はどのようになるでしょうか。ご存じのように、来年度の予算編成に向けて三位一体改革の論議が活発に行われました。三位一体改革は、小泉内閣が発足した3年半前に政府の大方針として示されたものであり、そのねらいは、現在の地方財政における国庫依存体質を改め、地方の自立を促すよう、国庫補助金や地方交付税を減額し、地方税を増額することにあります。この方針は、地方分権を進めるためにも、また、財政の健全性を取り戻すためにも、必要な政策であると私は考えています。

今回行われた三位一体改革の論議では、当初、地方六団体が提案した3兆2千億円の国庫補助負担金の削減と、これに対応する地方税源の強化は、そのままの形では実現しませんでした。平成17年度限りの暫定措置として、その一部が実現したに過ぎません。地方税源強化の問題については、本格的な税制改正が行われるまでの間の暫定措置として譲与税や交付金制度が設けられましたが、全体としてみると、平成17年度予算編成で実現した三位一体改革の内容は極めて不十分、不徹底なものと言わざるをえません。この問題は、2006(平成18)年度予算編成の際に、当初の理念目標に沿って、改革が実現されるべきであると思います。

平成17年度の地方財政全体の姿はどのようなものなのか。特に、その基本となる地方税や地方交付税などを含む地方一般財源がどうなるのか。この点については、その大幅な削減を主張する財務省と、必要額を確保しようとする総務省の意見が激突して、地方自治体関係者はその行方を心配していました。最終的には地方税、地方交付税、それに自主的な一般財源である臨時地方財政対策債を加えた総額は53兆4,400億円程度と決まり、この額は前年度に比べて実質0.1%増となりました。すなわち、一般財源については、ほぼ前年度並みの額が確保されたことになります。

平成16年度の予算編成の際には地方財源が大幅に削減され、地方自治体の予算編成が大変な困難を伴ったことは記憶に新しいことです。その16年度の規模に比べてさらに一般財源が大幅に削減されれば、まともな予算編成は不可能になると心配されていました。しかし、今回の地方財政対策によって、平成16年度と同様の努力をすれば予算は組めるという状況に落ち着いたといえます。しかし、大変な苦労を余儀なくされた16年度より一般財源が増えているわけではないので、行財政運営の困難さは来年度も続くものと考えなければなりません。

 

大詰めを迎える平成の大合併にも注視

厳しい行財政運営の一方で、市町村合併が大詰めを迎えています。合併を促す合併特例法については一部適用期限の延長措置が講じられていますが、いずれにしても、今年3月31日までに関係市町村の合併議決があったものについてのみ、財政措置が講じられることに変わりはありません。そのため、今年度末にかけて、市町村合併の議決を行う団体はさらに増えてくると思われます。市町村合併の状況をみると、その実現数は、政府が当初期待していたレベルよりも下回るようですが、いずれにしても、来年度以降は、今回の平成の大合併によって誕生した市町村をベースにして、これからの地方自治行政が展開されることになるわけです。

合併を機に、市町村には従来以上に、多くの権限が委譲されることになります。言うなれば、住民に身近な行政は、基礎的自治体としての市町村が、これまで以上に中心となって行う体制に移行していくということです。その意味で、平成17年度という年は、「市町村中心の時代」に移行していく年であるとみています。

財政事情が厳しいとき、また、世の中が大きく変わろうとしているときこそ、自治体における広報広聴活動の重要性は増します。財政が厳しくなれば、住民が望む行政サービスが制約されます。あるいは、これまで以上に税負担などが重くなる可能性もあります。そのとき、自治体として、その背景や必要な理由、自治体としての努力の仕方などを、懇切丁寧に住民に説明し、理解してもらわなければなりません。

広報広聴活動においては、最近は、いわゆる活字離れの傾向が顕著になっています。一般の出版物や新聞、雑誌などでも、その影響が指摘されています。これは行政広報も例外ではありません。従来のメディアを中心とした広報広聴活動だけでは十分な役割を果たすことができません。インターネットや携帯電話が普及している現在、こういった新たな広報媒体の活用も視野に入れつつ、そのための技術やノウハウを蓄積・向上させていくことが、広報関係者にとっての大きな課題といえます。

日本広報協会ではこれまで、こうした状況の変化に即応しながら、広報関係者の皆さんに技術的な指導、助言、研修などを行ってきましたが、これからも一層、その面での努力を怠ることなく、諸事業を進めていく所存です。そして、広報関係者の皆さんにおかれましても、時代の変化を的確にとらえ、それに対応できるように、努力・研鑚(けんさん)を重ねていただきたいと願っています。

2005(平成17)年1月掲載

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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