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「お知らせ型の広報」から「ステークホルダーマネジメント」へ

  • 石川 慶子
    広報コンサルタント/シニアリスクコンサルタント

「広報」の意味は、辞書では「お知らせ」になりますが、組織における広報セクションの機能を歴史的視点でたどっていくと、全く違う姿が見えてきます。日本には、戦後米国から入り、英語の「パブリック・リレーションズ」を翻訳する際に「広報」となりました。従って、本来の意味は「人々とのより良い関係」を構築するための活動であり、組織と社会との関係についての考え方、行動のあり方になります。

広報専門家の間で認識されている定義としては「理解、信頼、好感(ファン)の獲得を目的とした継続的な対話活動」となります。また、「パブリック」とは、組織外の人たちだけではなく、組織内の人々、社員や職員も含まれます。特に最近は、リスクマネジメントが重視されるに従って、組織内コミュニケーションやネガティブ情報の把握と管理が、大企業の広報セクションにおいては大きなテーマとなっています。

企業においては、事業の存続や発展を目的としたステークホルダー(組織を取り巻く人々)ごとのリレーション活動が行われてきました。代表的なもので、対メディア活動(メディア・リレーションズ)、対投資家活動(インベスター・リレーションズ)、対従業員活動(社内広報、あるいはエンプロイー・リレーションズ)、対地域住民活動(コミュニティ・リレーションズ)などです。

1990年代になると、環境問題とリンクしながら注目されてきたCSR(企業の社会的責任)の考え方が世界的に浸透するにつれ、対象別リレーションズといった枠ではとらえきれない関係者が出現してきていることから、ステークホルダーを洗い出し、各ステークホルダーとの理想的な関係を構築するための「ステークホルダーマネジメント」という考え方が出てきました。このステークホルダーという考え方は、すべての組織で応用することができます。

行政におけるステークホルダーは、地域住民だけでなく、企業、NPO、NGO、議員、マスコミ、職員、各省庁であり、さらに細かく対象者を見ていけば、地域住民といってもひとくくりにはできず、年配者、若者、主婦、ビジネスマンなどになるでしょう。

ステークホルダーマネジメントを広報セクションの中で実現するにはどうしたらよいか。まずは、一番身近な広報紙から取り組んでみてはどうでしょうか。広報紙の作り方においては、すでにさまざまな試みがなされています。

横浜市では、通常の広報紙とは別に、より若い層向けに横浜を好きになってもらうという目的で「ハマジン」や「横浜レンガ通信」といったフリーペーパーを発行しています。また、さいたま市では、広報紙の内容の一部に漫画を使う試みもしています。これらはいずれも対象者を具体的に想定したからこそ踏み出せた一歩といえるでしょう。これがまさにステークホルダーマネジメントになるのです。

今後は、読者を市民だけに想定するのではなく、職員や議員を意識したメッセージの組み方もあるのではないでしょうか。実際、私が犬山市を視察した際には、市民よりも職員や議員が熱心な読者であることがわかりました。また、事業の失敗についても、広報紙面を使って検証特集をすることも必要になってくるでしょう。札幌市では、広報紙面を使った市長の謝罪もありました。

このように広報セクションでは、ステークホルダーを洗い出し、だれにとってどの情報がどのように価値あるものなのかを瞬時に見極め、集約して情報を発信する考え方や手法が必要になってきます。企業は厳しい市場競争において広報の機能を昇華させてきました。行政において「経営」要素が盛り込まれる中、行政における広報も経営的視点からその機能を見直し、お知らせ広報ではなく、相手としっかりと向き合ったマネジメント機能にしていく必要があるのではないでしょうか。

 

いしかわ けいこ
東京女子大学卒業。国会職員として参議院事務局勤務後、1987年より映像制作プロダクションにて、劇場映画やテレビ番組の制作に携わる。95年より広報サービス会社のマネジャーとしてインターネットを活用した広報を始め、記者会見設定、ウェブコミュニケーション、危機管理広報など企業のコミュニケーション活動をサポート。2003年、会社を設立して独立。有限会社シン取締役社長、日本広報学会理事、日本リスクマネージャー&コンサルタント協会評議員。著書に『マスコミ対応緊急マニュアル』(ダイヤモンド社)。

 

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