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ターゲットを動かす「広報力」

  • 菅井 利雄
    (株)プラップジャパン コミュニケーションサービス本部 コンシューマーコミュニケーション2部部長

企業広報では日常的にプレスリリース(報道資料)が広報活動の主軸として使われている。そのプレスリリースの年間発信本数を調べてみたところ、あるメーカーでは163本、外資系IT機器メーカーが46本、有名私立大学は92本、フードサービス業がおよそ120本となった。これが多いのか少ないのかは、会社の規模や置かれる環境によって違いはあろうが、週3本ペースであれば少なくない。

10年ほど前の話である。PR・広報活動を当社に依頼していた企業社長が突然「プレスリリース発信数を週3本にする」と言い出した。その理由はと聞くと、大口取引先がプレスリリースの発信数を増やしたことに触発されたからであった。

プレスリリースの発信数を広報力と解釈している企業(もしかするとトップ)が増えたのではないか。そう思えるほど昨今では発信数量だけが増え、記事として取り上げるほどの内容ではないものが多い。10年前、先述した企業がプレスリリースの発信数を週3本にしてから、あるマスコミの、その企業の担当記者から「ニュースにならないリリースは送らないでほしい」「うちはおたくの宣伝紙ではない」とあきれた反応を返された。今日このような苦言をいってくれる記者は減ったが、プレスリリースの内容が良くなったとは思いにくい。

私は広報講座で「コミュニケーションとは相手に行動させること」と申し上げている。家族に「そこの新聞を取ってきて」という言葉をかけて、「新聞を取ってもらう」という行動が生まれたらコミュニケーションは成功、行動がなければコミュニケーションは失敗となる。広報活動の目的が「情報周知」「相互理解」と思っていること自体が古く、最近の広報活動、とりわけマーケティングPRならば消費者の「購買」、行政広報ならば例えば受益者である市民が快く「納税」などの行動を起こしてこそ成功となる。

プレスリリースでも「行動させるコミュニケーション」を踏まえてメッセージの組み立て方やタイミングを熟慮するのは当然である。広報力とは、「どのターゲットにどのような行動を起こさせたいのか」コミュニケーションの本質をおさえてこそ成功に近づく。当社の取引先にはそのような広報活動を実践して成功している企業・行政が増えているし、その指導書も出てきた。今後、ターゲットを動かす広報力を理解し、戦略的広報に取り組む企業は増えるだろう。さらに、広報力を備えた専門家がどんどん育っていくはずである。4大マスメディア(新聞、テレビ、雑誌、ラジオ)の限界が指摘され、メディア環境が大きく変りゆく中で、広報力はさらに進化が求められている。

 

すがい としお
1961(昭和36)年生まれ。現在、PR会社プラップジャパンに勤務。企業・団体の戦略的広報コンサルティングからマーケティングPR、危機管理対応などの業務に従事するほか、ここ数年は、社員の教育機関であるプラップ大学での教鞭、社外の講演活動で技術共有にも努める。

 

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