コラム

トップページコラムNet de コラム > Vol.47 広報する上で注意すべき著作権

Net de コラム Vol.47

広報する上で注意すべき著作権

  • 富樫 康明
    特定非営利活動法人 著作権協会 理事長

広報紙やウェブサイトを制作する際に、イラストやロゴマーク、キャラクターなどを使うことは少なくありません。これらの制作物を外注した際に、注意しなければならないのは著作権の取り扱いについてです。

著作権は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの(著作権法第2条1項1号)」を著作権法により保護される法律のことです。法律用語は難しいですが、簡単に言えば「自分の考えたもの、他人の考えたものを創作し表現したものすべてに著作権が発生している」ということです。著作権は、たとえ未完成であっても、作業途中のものであっても、老若男女のすべての著作者に権利が自動的に発生します。

この著作権は譲渡することができますが、著作権譲渡契約を取り交わし、著作者に金銭を支払った時点で著作物に関するすべての権利が譲渡されていると勘違いしてしまうことが多いようです。

 

トラブルの原因になることが多い同一性保持権

トラブルとして多いのが、著作権譲渡後の著作物の取り扱いをめぐる問題です。「著作権譲渡契約を結んでいるから、著作物は自由に使用できる」と考えてしまうことです。

著作権には「著作者人格権(著作権法59条・60条)」というものがあります。この著作者人格権には「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」という三つの権利が含まれています。「公表権」とは著作者が著作物を公表するかしないか、する場合はいつ公表するかを選ぶ権利のことです。「氏名表示権」は、著作者の本名、ペンネーム等の表示または氏名表示拒否を選ぶことができる権利のことです。「同一性保持権」は、その著作物を無断で改編、修正、変更することができない権利のことです。

この「同一性保持権」がトラブルの原因になることが多く、例えば「著作物を自由に使用できる」と考えて、キャラクターのイラストの色を変更したり、ポーズを変えたりすると、著作者人格権の侵害になってしまうのです。

著作者人格権は一身属性のものなので、著作権譲渡の契約を結んだだけでは、著作者人格権が自動的に譲渡されるわけではありません。著作権譲渡契約を結ぶ際には、この著作者人格権についても契約の中に明記する必要があります。

 

誰が著作者なのか

もう一つ注意すべき点があります。

著作物等の制作を外部の業者に依頼した場合、著作権は依頼された業者にあります。ここで問題になるのは、「誰が本当の著作者なのか」ということです。業者に著作物の制作を依頼したとしても、その業者の下請け会社が著作物を制作した場合、著作権はあくまでも「著作物を制作した者」に発生しているため、著作権は下請け会社にあることになります。この場合は、業者と著作権譲渡契約を結んでも、著作者はその業者にないため、契約が無効になることがあります。こうした事態を防ぐためにも、発注時や契約時には、下請け会社の有無など、著作者の確認が必要になります。

著作権を譲渡すれば、著作権者は変わります。下請け会社、委託業者、発注者と、著作権の譲渡を繰り返せば著作権者は変わります。しかし、著作物には、著作権だけでなく、著作者人格権があるということも忘れてはいけません。

 

重要な項目は文書で残す習慣を

著作権に関するトラブルを未然に防ぐためにも、発注書または契約書(委託契約等)には必ず「著作権譲渡」をしっかりと記載しましょう。また、契約書等に記載されていない場合は、領収書のやりとりの際に「著作権譲渡」を記載することを勧めます。契約は、口頭であっても法律上認められています。しかし、口頭だけでは「よいと言ったが、そのような扱いではない」「そこまでは聞いていない」といったトラブルの原因のもとになります。「著作物は一度だけ使用する」のか、「広報物に掲載後、ウェブサイトにも掲載するなどの二次使用もある」のか、「キャラクターはある程度までなら微修正可能である」のかといった、どの範囲までの著作権譲渡契約なのか、重要な項目は文書で残す習慣を付けましょう。

著作権については、お互いの権利関係を明確にするという意識をしっかり持つことが必要です。

 

とがし やすあき
1954(昭和29)年東京生まれ。10代のころよりイラストレーターとして活動し、1972年に商業デザイン会社を創業。1999年、NPO法人著作権協会を設立、理事長を務める。著作権研究会代表。

 

ページトップへ