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石原信雄の時代を読む Vol.18

自民圧勝で終わった参院選後の政治の行方

選挙結果に表れた国民の不満と危機感

2013年7月の参議院選挙は、当初から伝えられていたように、自民・公明与党の圧勝に終わりました。その要因についてはいろいろ伝えられておりますが、基本的には民主党政権に対する失望、そして我が国の置かれた状況が危機的であるにもかかわらず、ここ数年の政権がいわゆる衆参のねじれ現象の下で効果的な政策を打ち出せなかったことに対する危機感の表れであったといえます。

いずれにしても、今回の選挙結果は、我が国の現状に対する不満・危機感といったことが、与党である自民党・公明党に対する期待という形になって表れたものといえます。国民の圧倒的な支持を得た自民・公明両党には、国民の期待に応えるべく努力・研さんをしてもらいたいと思います。

 

経済を活性化させる成長戦略の策定と実行を

具体的に期待される事柄としては、長く続いた日本経済の低迷から本格的に脱するために、いわゆるアベノミクスの成果というものを定着させることが最大のテーマでありましょう。これについては大規模な金融緩和と積極的な財政出動という二つの矢に続き、第三の矢として、日本経済を真に活性化できるような成長戦略の策定と実行が求められるところです。

この成長戦略については、現在、政府が内容の詰めを行っているところでありますが、規制緩和などこれまでの経緯にとらわれることなく、我が国の経済が競争力を回復・維持できるように、あらゆる手を打ってもらいたいものです。

 

急がれる日本版NSCの立法化と体制整備

もう一つの大きなテーマは、外交と安全保障の問題です。外交の面では尖閣列島の帰属をめぐって中国との対立がますます深刻な様相を呈しています。この問題について、我が国は基本的な立場を変えることはできませんが、同時にまたこの問題で、いたずらに中国との対立を激化させるべきではないと思います。要は日中の対話をいかに復活するかということについて、安倍内閣には大いに期待したいところです。

一方、主体的な外交を可能にする前提として、我が国は確固たる安全保障政策を立てる必要があります。よく言われますように、備えあれば憂いなしということで、我が国が安全保障の面で十分な備えをしていることが、紛争を未然に防ぐ一番の近道ではないかと思います。

安倍内閣の下では多年の懸案であったいわゆる集団安全保障の問題について、現在、検討が進められているようですが、私は本来、集団安全保障というのは自衛権の一環として当然認められるべきものだと考えます。この点についても前向きの結論を期待したいところです。

また、政府の安全保障政策を機敏に実行できるシステムとして、いわゆる日本版NSC(国家安全保障会議)というものを速やかに立法化し、体制を整備してもらいたいと思います。我が国の防衛計画については、歴代の政権の姿勢として、防衛費をいわば軽視してきたきらいがあります。しかし、一国の安全を守るために必要な装備というものは、やはり計画的に整えておく必要があるのではないでしょうか。

 

TTP参加は、個別の問題ではなく全体のメリットを考えて

経済の問題にもかかわることですが、外交問題でもあるTTP(環太平洋戦略的経済連携協定)への交渉参加については、早ければ年内に結論が出されるのではないかといわれています。この問題は、国内において農業や医療、その他の面で利害が対立することが多いわけですけれども、私は基本的に我が国の経済・外交の全般の立場に立って、個別の問題で少々困難があっても全体としてのメリットが大きいのであれば、これは取りまとめるという強い姿勢が必要であろうと思います。

もちろん、いたずらにアメリカその他の国の要求を丸のみしろということではありません。我が国の立場は十分主張しながら、強い決意で臨んでもらいたいと思います。

 

財政健全化と社会保障制度の安定化にとって消費税率引上げは不可欠

三番目のテーマは、社会保障制度の抜本的な見直しと財政再建問題です。少子高齢化の進展などによって、現在の社会保障制度は毎年度、巨額の自然増を生み出し、日本の財政悪化の主たる要因は、その社会保障関係費の増大にあると言われています。
そこで、一方においては現在の社会保障制度の中身を仔細に点検して、真に救済を必要とする人たちに対して重点的に社会保障の手を差し伸べると同時に、負担能力のある人に対しては相応の負担を求めることで、全体として社会保障関係費の増大を抑制する抜本策が必要ではないかと思います。

一方、仮に抜本策を講じたとしても全体としての社会保障費の増大は避けられません。その財源的な裏打ちとして、昨年(2012年)の国会で成立した「社会保障と税の一体改革に関する法律」に基づき、消費税の税率引き上げを確実に実行に移すことが必要ではないかと思われます。

景気情勢とのからみで、今に至るも消費税率の引き上げに否定的な意見もあるようです。しかし、幸いに安倍内閣の政策の効果もあって、日本経済はこのところ上向きに転じていますので、予定どおり消費税率の引き上げは実行すべきではないかと思います。

この問題は、我が国の財政再建の成否を占う大きなポイントでもあります。もし消費税率の引き上げが行われないことになった場合、日本の財政に対する国際的な信任が揺らぐことになり、ひいては日本の国債の発行条件が悪化して金利上昇につながっていくなど、この問題のもたらす影響には極めて大きなものがあります。

当面の景気に対する思惑よりも、日本の財政再建に対する国際的な信頼が揺らぐということによるデメリット、日本の経済や財政に与える影響といったことを考えたら、消費税率の引き上げはスケジュールどおりに行うことが必要であり、その面でも内閣の確固たる姿勢に期待したいと思います。またこの消費税率の引き上げは、同時に地方財政にも大きくかかわる問題です。地方財政の健全性を確保する上からも、これは予定どおり実行されるべきではないでしょうか。

 

憲法改正には国民的なコンセンサスを得る努力が必要

さて、最後に憲法改正問題ですが、いわゆる自主憲法の制定は自民党の年来の政策であります。いずれの日か、日本国民の手による憲法改正が必要ではないかと思いますが、この問題は単なる改正手続きに終始するのではなくて、憲法の内容を我が国の実情にふさわしいものに変えるということについての国民的なコンセンサスを得る努力が必要であると思います。国民のコンセンサスがあまり深まっていない段階で憲法改正問題を打ち出しますと、世論の対立を招くだけであまり益がないと思われます。

今回の自公政権の誕生後、向こう3年間は選挙が予定されておりません。久しぶりに安定した政権運営が出来るわけですし、衆参のねじれ現象も解消されているわけですから、当面する経済問題、外交問題、安全保障問題、社会保障問題などについて、しっかりとした方向性を打ち出すと同時に、憲法改正については単なる先送りではなくて、この問題についての国民の理解を深めるための努力を続けていってほしいものです。

いずれにしましても、今回の参議院選挙の結果、国民は自公政権に大きな期待を寄せているわけですから、自公政権にはこれまで処理されてこなかった多くの懸案を逐次処理していただきたいと思います。

2013(平成25)年8月掲載

 

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