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石原信雄の時代を読む Vol.21

戦後70年──これからの日本が目指すべき道とは

我が国を取り巻く安全保障環境が大きく変化

昨年2015年は、戦後70年目に当たる節目ということで、この70年間を振り返り、今後の日本が目指すべき道についての議論が活発になった年でした。では、その70年間の最大の変化は何かといえば、それは我が国を取り巻く国際環境が大きく変わってきたということではないでしょうか。

70年前、我が国は敗戦によって、いわゆる戦後社会を迎えました。当時は東西の冷戦構造が極めて明確であり、我が国は自由主義陣営に属して、安全保障面はアメリカ合衆国を中心とする西側諸国の傘の下で、ひたすら経済の再建・発展に専念した時代であったと言えます。

しかし、その冷戦構造もソビエトの崩壊によって大きく様変わりしました。ソ連に代わって台頭してきた中国の発展には目覚ましいものがあり、最近の中国は、経済の発展とともにその軍事力も急速に拡大強化しています。

一方、西側諸国の盟主である米国の相対的な影響力は、ひところに比べて大きく低下しております。このような環境変化の中で、我が国の安全を確保するためには、我が国自身の防衛努力とともに、同盟国、特に米国との協力関係をいっそう強化せざるを得ない状況にあることは否定できません。

 

集団的自衛権の行使については今いっそう丁寧な説明を

先般の国会で成立した安全保障法制につきまして、私は内容的には必要なものだと考えています。特に与野党の大きな争点となった集団的自衛権の行使については、「我が国の存立自体が危ぶまれるような限られた状況の下で、同盟国との連携を強化する限度において協力関係を前進させる」、それを集団的自衛権の行使と位置づけているわけですが、見方によっては個別的自衛権の範囲にあるともいえます。

極めて限られた範囲での集団的自衛権の行使については、我が国の独立を守る上で私は許容される範囲のものであると理解しておりますが、これまでの政府が内閣法制局を中心に「集団的自衛権の行使は、現行憲法の解釈上、一切認められない」という立場をとっていただけに、憲法の改正なしに集団的自衛権の行使を認めるという法制について国民の理解を得るためには、やはり今いっそう丁寧な説明が必要ではないかと思います。

 

相互不信感の除去は防衛力の整備以上に大切

一国の平和は、防衛力の強化あるいは同盟国との協力関係の強化だけでは達成できません。当面する相手である中国や韓国、特に中国との対話をいっそう強化する必要があります。

過去の歴史を振り返れば、相互の軍備の増強と相互の不信感の高まりが戦争の原因となっています。今後を考えますと、単に防衛力を整備するだけでは我が国の安全は保てません。相互不信こそが安全保障にとっていちばん有害であるとすれば、防衛力の整備以上に大切なのは、関係国との間にある不信感の除去に努めるということです。特に中国との信頼関係を取り戻すためには、いっそうの努力が求められるところであります。

私自身の経験からしましても、中国側が抱いているいろいろな懸念について懇切丁寧に説明していくこと、つまり、我が国には決して他国を侵略するような意図はないこと、何よりも平和を愛する国であるということを相手側に認識させることが最も肝要ではないかと思います。

 

少子化対策は地方自治体との連携で

国内に目を向けると、残念ながら我が国の人口の減少と高齢化の進行は、これからますます顕著になります。今すぐ有効な手当てを講じなければ、将来、日本の総人口は半減してしまいます。そして我が国の多くの地方自治体が消滅の危機にさらされます。

このような人口減少傾向は、一朝一夕には変わらないものです。さりとて何もしなければ、ますます事態は深刻になります。少子化対策として有効な手当てを、直ちに講じる必要があるわけです。

もちろん政府は、子育て支援に関するいくつかの施策を展開しようとしています。この面については、直接住民と接する地方自治体と連携して、とにかく若者が結婚できるような環境を整備すること、そしてまた結婚した若者が安心して子どもを産み、育てられるような環境を整備することが何よりも大切であります。

 

技術革新と生産性の向上で経済の活力を維持したい

経済全体の面では、残念ながら最近の中国経済の停滞はしばらく続くと見なければなりません。その影響で、我が国は輸出の伸びを期待できない環境にあります。
このような状況を打破するためには、中国以外の国々との貿易を活発化するための努力が必要でありましょう。中国との関係でいえば、単に貿易だけではなく、環境問題、文化の問題などあらゆる面で連携を強化していくことが、経済活性化の面でも有効に働くのではないでしょうか。

いずれにしましても、我が国の経済を取り巻く環境はますます厳しく、世界的な経済減速の影響を受けると考えなければなりません。その中で、経済の活力を維持してくためには思い切った技術革新、あるいは生産性向上への努力が必要になってくるでしょう。
同時に、このこととの両立には困難な面がありますが、経済全体の活性化を達成するためには賃金の引き上げ、貧困者対策といった分配面での配慮も必要です。

 

日本の農業は"攻めの農業"への転換を

個別企業が将来に不安を持つ場合、内部留保を強化するという行動は是認されなければなりません。しかし、すべての企業が同様の行動をとってしまえば、経済全体が冷え込んでしまいます。そこは政府が乗り出して、労働者の賃金の引き上げ、あるいは社会保障の充実等の分配政策について、思い切った手を打つ必要があります。

経済成長を促す最も大きなカギは個人消費であります。個人消費を伸ばさなければ経済の減速は止まりません。また、将来に備える上では個別企業が積極的に投資を行うことも必要です。設備投資については個別企業の将来に対する見通しと不可分でありますが、同時に個別企業が将来を悲観的にばかり見ていたのであれば、それはまた経済全体の減速つながってしまいます。
このあたりについては政府と経済界、個別企業の認識の共有が大切になるでありましょう。

農業の問題については、TPPの妥結により日本の農業が大きな影響を受けることは避けられません。しかし、それは同時に農業が国際社会に乗り出していくチャンスでもあります。日本の伝統的な農業の考え方をこの際180度転換して、攻めの農業に変えていく必要があります。
そのためには農地制度その他、農業経営をめぐるいろいろな諸制度の抜本的な見直しも必要になるでしょう。

 

地域の活性化は熱意と知恵、地方と国のコラボレーションで

内政面では、以上のような経済の問題とも絡んで、地域の活性化、いわゆる地方創生の問題が正念場を迎えます。地方創生に関連する事業は、個々の自治体ごとに環境が異なるように、その内容が異なるのは当然であります。まさにその地域にとって何が最適な施策かということを、地域の人たちだけでなく、国内全体あるいは世界経済まで含めた広い視野を持った人たちとコラボレーションして見極めていくことが大切ではないでしょうか。

そしてこの地方創生の問題を解決するには、単に国の施策に頼るだけでなく「自分たち自身で問題を切り開く」という熱意と知恵が必要です。この問題は、まさに地方と中央のコラボレーションによってこそ成果が期待できるものであります。あなた任せでは、決して地域の活性化は実現できないでしょう。

いずれにいたしましても、我が国の人口減少と高齢化は、ここ当分必ず進行します。こうした社会の中で、各地域の住民がそれぞれ人間らしく生きていける環境をつくるためには、お互いが知恵を出し合い全力で取り組む必要がありましょう。
新しい年が将来に向けて明るい希望をもてる年になるよう、大いに期待したいものです。

 

2016(平成28)年1月掲載

 

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