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石原信雄の世相診断 Vol.7

新しく公務員になった皆さんに期待する

4月は、役所の場合も民間企業の場合も、希望にあふれた若い人たちが入って来られるということで、職場がぱっと明るくなる季節であろうと思います。しかし、公務員の皆さんにとって今年は、かつて見られたような晴れ晴れしい状況とは少し事情が違っているように思います。

ご承知のように昨今、公務員に対する世間の風当たりにはたいへん厳しいものがあります。その背景には、バブル崩壊後のわが国の経済の不振、それから来るところの失業者の増加、あるいは財政危機の深刻化といった事情があります。

また一方では、ごく限られた人たちではありますけれども、公務員の中に世間の顰蹙(ひんしゅく)を買うような不祥事を起こす者が出ているということも、公務員に対する評価を一段と厳しいものにしている一因であると思います。

さらにまた、最近、議員と公務員の関係が問われています。先般来、特定の議員と外務省の関係が国会の場で、あるいはマスコミ等で厳しく取り上げられていることはご承知のとおりです。こういった事件を契機として、議員と公務員の関係はいかにあるべきかが、いま改めて問われているわけです。

ところで、公務員とはそもそもどういう存在なのでしょうか。

言うまでもないことですが、公務員は国民の納める税金によってその給与が支払われます。その意味で、民間の企業に勤務する一般のサラリーマンとは、根本的に違う面があります。

憲法では、すべて公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない、と定められています。では、全体の奉仕者とはどういう意味なのかということであります。

わが国は法治国家です。国であれ地方自治体であれ、その行政の基本は国会が定めた法律に従って執行されます。そして、この法律を執行するのが行政組織であり、公務員はその行政組織を動かす一員であるわけです。ですから、公務員が全体の奉仕者としてその責務を全うするということは、とりもなおさず法律の執行に当たる行政組織の中で、その与えられた役割を忠実に果たすことであろうと思います。

ところで、行政については、中立性ということがたいへん重要です。もろもろの政策を提案し、これを法律として定める役割は政治の責任分野ですが、いったん法律が成立すれば、その執行に当たるのは行政組織です。その行政組織を動かすに当たっては、法律の定めに従って厳正中立にこれを執行する必要があることは言うまでもありません。

特定の政治家が行政の執行過程に介入して、個々の公務員に不当な圧力をかけ、行政執行を自分に有利なように曲げることは許されません。これが、最近問題になっている国会議員と公務員の関係で取り上げられているテーマでもあるわけです。

また、国民や住民に対する行政の執行は常に公平でなければなりません。同時に行政の執行過程は透明でなければいけません。そういう意味で、行政の公平性、透明性ということが最近特に重要視されているわけです。

具体的に言いますと、一つは行政の執行手続が常にオープンでなければならないということを意味します。行政というものは、結果も大切ですけれども、手続、執行過程がたいへん重要であるということです。

行政の透明性を高めるためには情報公開が必要です。現在では、中央政府も地方自治体も情報公開法や情報公開条例によって、公の情報は国民なり住民なりの開示請求にこたえて公開されるのが原則となっています。このことを公務員の皆さんはよく認識する必要があります。

しかし同時に、公務員には、国家公務員法や地方公務員法の規定によって職務上知り得た秘密を外部に漏らしてはならないという守秘義務が課せられています。国の行政や地方行政の中には対外的に公開すべきでない事柄が含まれていて、その典型的な例が個人情報です。個人の情報は行政によって守らなければならないということが原則とされているのです。

それからまた、犯罪捜査や税務調査などの結果には、一般的に情報公開にはなじまない面が多くあります。公務員の皆さんは、この情報公開の原則と守秘義務との関係でいろいろ判断に迷われるケースに直面することがあると思います。しかし現在では、公開すべきか秘密を守るべきかについて、多くの場合、法律その他のルールが確立されていますので、それをしっかり守っていくことが大事ではないかと思います。

最後になりますが、公務員の皆さんは自分の仕事に誇りと自信をもっていただきたい。初めに申しましたように、最近の公務員に対する風当たりは決して温かいものではありません。しかし、多くの場合、公務員の皆さんは選ばれた人たちであると言っていいと思います。公務員の仕事は国民生活にとってきわめて重要であり、誇りをもって遂行するに値する十分な内容をもっています。

そして、公務員は国民や住民に対するパブリック・サーバントです。そのことを片時も忘れてはなりません。住民に対しては常にサービス精神をもって臨むことを忘れないようにして、自信と誇りをもって仕事に携わってほしいと思います。

2002(平成14)年4月掲載

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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