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石原信雄の世相診断 Vol.10

首長の強いリーダーシップと明るい将来を導くための工夫ある広報に期待

新年あけましておめでとうございます。

2003(平成15)年の干支(えと)は「未(ひつじ)」。ふわふわの毛をまとった羊の姿から、だれもが「ぬくもり」というものを感じるのではないでしょうか。しかし、いま私たちを取り巻く環境は、そんな羊の“温かい”イメージとは、縁遠いものがあります。

小泉内閣が一昨年に発足して以来、今日まで、日本経済の建て直しのために全力投球を続けていますが、残念ながら、経済の状況は一向によくなりません。また、小泉内閣の最重要政策である「聖域なき構造改革」路線のもとで、金融機関の健全化を推し進めるために、不良債権の積極的な処理が進められています。その結果として、当面は、企業などではリストラの嵐(あらし)が吹き荒れ、失業者が一時的に増加することも避けられない状況にあります。

経済情勢の低迷を反映して、財政状況も厳しさを増しています。先般、2003(平成15)年度予算の政府案が決まりましたが、予算の実質的規模は前年度よりさらに圧縮されています。税収の落ち込みのために、国債の発行額も大幅に増加せざるを得ない状況となっています。

 

地方財政の厳しい現状の中で

地方財政についても、事情は同じです。地方税収入の大幅な落ち込み、国庫補助金の削減などにより、地方の歳出についても、地方単独事業を中心に、前年度に引き続いてその規模が圧縮される見通しとなっています。

一方で、少子化・高齢化の影響も一層強く出てきています。社会福祉関係の経費をはじめとして、雇用対策、中小企業対策など、全体として、地方の財政支出要因はむしろ増えているのです。

このような厳しい状況のもとで地方行政を運営していくに当たって、その成否の鍵(かぎ)を握っているのが、自治体トップの強いリーダーシップです。財政事情が良いときには、各方面の要望を満遍なく受け止めて、豊かな予算を組むことができました。また、住民にもそれぞれに納得していただけるような行政を展開することが可能でした。しかし、現在の厳しい状況のもとでは、あれもこれもというわけにはいきません。時には、勇断をもってその経費をカットせざるを得ないこともあるかと思います。その意味で、経済情勢が厳しく、財政が逼迫(ひっぱく)しているときこそ、トップのリーダーシップが強く求められるのです。

首長がリーダーシップを発揮するには、住民の皆さんが置かれている状況をはじめ、世の中万般について、その状況を正しく的確に把握することが必要になってきます。的確な状況の把握なしにリーダーシップを発揮しようとしても、それは必ずや、蛮勇に終わってしまうでしょう。首長の意図することが、庁内職員をはじめ、住民に対しても、迅速に正しく伝えられているかどうかが問われてくるのです。

 

キーワードは「住民参加」

そう考えると「情報」というもののもつ意味は極めて大きいといえます。必要な情報を収集し、また首長の政策意図を正しく職員や住民に伝えていく手段が広報の役割です。ここでいう広報というのは、単に知らせるだけの広報ではありません。住民の気持ちを汲(く)み上げる、いわゆる広聴も含めた広い意味での広報です。その重要性がいまほど高まっているときはありません。

今年の地方行政におけるキーワードを挙げるとすれば、それは「住民参加」です。住民の協力、住民の参加を引き出すには住民の皆さんに的確で豊富な情報提供がなされなければなりません。その役割を担っているのが広報なのです。いわゆるアカウンタビリティ(説明責任)を実行するためにも、広報は行政における重要な戦略の一つでもあるのです。

私がいつも申し上げているのは、「財政が厳しいときほど広報に費やす予算を惜しんではならない」ということです。最近は広報媒体も非常に多様化してきました。IT時代における広報は、従来とは大きく様相を異にしています。これからの厳しい環境の中で、自治体が住民に的確なサービスを提供していくためにも、広報面の努力・工夫は必要不可欠であるし、またなによりも、そのための経費を確保していくことが大切ではないかと思います。

今年1年、あらゆる面において、大変厳しい状況に置かれることは避けられませんが、お互いが将来に希望をもっていけるように、努力を惜しまず、地域において工夫ある広報を実践していこうではありませんか。

2003(平成15)年1月掲載

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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