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石原信雄の世相診断 Vol.12

三位一体改革と地方分権

このところ、三位一体改革という言葉が毎日のように新聞、テレビをにぎわしています。そもそも三位一体改革とは、2002(平成14)年の6月、小泉総理大臣が、国・地方を通ずる行財政改革の一環としてその方針を明らかにしたことが始まりです。すなわち今後、地方の自主性の強化と財政の安定化を図るために、(1)国から地方への税源委譲と、(2)国から地方に交付されている国庫補助金や国庫負担金の見直し、さらに(3)地方財政の運営を支えている地方交付税、この三つについて同時並行的に改革を進めるというものです。

具体的に言いますと、国庫補助金・負担金を今後数年間に数兆円規模で削減する。そして、それに見合った額だけ国税から地方税に税源を委譲する。この改革に関連して地方交付税制度を根本的に見直して、地方の自立を促すということです。

小泉総理は、この三つの改革を一体として行うという意味で三位一体という言葉を使われたわけです。そして、この三位一体改革の具体案を1年後、つまり2003(平成15)年の6月までにまとめなさいと関係閣僚に指示されました。この小泉総理大臣の方針を受けて、地方分権改革推進会議(議長・西室東芝会長、議長代理・水口中小企業金融公庫総裁)が精力的に審議を行い、この6月6日に「三位一体の改革についての意見」を小泉総理に提出しました。

 

関係者の考え方に大きな隔たり

この地方分権改革推進会議の議論の過程で、三位一体改革についての関係者の考え方に大きな隔たりがあることが明らかになりました。西室議長や水口議長代理は、三位一体改革は国・地方を通ずる深刻な財政危機のもとで行うものであるから、それが単に国の税源を地方に委譲するということであってはならない、あくまでもこの改革は国・地方を通ずる危機的な財政状態を改善する上で役立つようなものでなければならないと考えておられます。

その結果、地方分権改革推進会議が最終的に小泉総理に提出した意見内容は、まず、地方の歳出を徹底的に見直し、削減するということです。その上で、国庫補助金、負担金の改革を行う、すなわち補助金、負担金を削減、廃止すべきであるとしています。その上で、なお、その補助対象となっていた事務事業がこれからも必要である場合は、そのための財源は、将来、国から地方への税源委譲で対応すべきであると言っています。

ただし、この改革意見では、補助金や負担金の削減はただちに着手することを強調しておりますが、これに関連して、国税から地方への税源委譲の問題は増税を含む本格的な税制改革が行われるまでは暫定的な措置で対応すべきであるとし、本格的な税源委譲は将来の課題というような位置付けになっています。

一方、地方交付税制度の改正については、これまでの地方交付税の算定が、地方公共団体の歳出全般についてその水準を維持できるように財源保証が行われてきた点に関し、地方の自主性・自立性を促す立場からこれを根本的に改めるように提言しています。これからの地方行政の望ましい姿は、地方行政サービスに必要な財源はそのサービスを受ける住民が直接負担する地方税によってまかなわれる形に切り替えていくべきであるとしています。すなわち、受益と負担の関係がより明確になるような体制に変えていくことが必要であると。その点、現在の地方交付税制度は、地方公共団体の歳出水準を地方交付税の算定を通じて保証しているがゆえに、かえって地方の自立心を損ねていると主張しています。

そこで、この地方交付税制度については、従来、国税の一定割合として定められている部分、いわゆる法定分と、毎年度国の一般会計から特例的に交付している部分とを分けて、その算定方法を変えるべきだということも主張しています。すなわち、法定分については、できれば将来、地方の共同税という形に切り替えて、都道府県が課税する。そして税率は、現在の交付税の法定税目に対する法定税率と同じにするというわけです。そして、その収入は一括して各都道府県から交付税会計に繰り入れてそれを全国的にプールする。プールするに当たっては、各都道府県の課税力に逆比例的に再配分するという案を示しております。

また、国の一般会計から交付税会計に特例的に繰り入れている部分については、国の政策目的に沿った必要な財政支出にこれを当てるということに変え、段階的にこれを削減していく、将来的にはゼロにするということも述べています。

現在の地方交付税は、法定分と特例分とを一つにして、地方財政全体としての財政運営が可能になるように、いわば総合的に算定交付されていますが、地方分権改革推進会議の案は法定分と特例分を分離して、配分方法も従来とは全く違ったものにしようという案になっております。地方分権改革推進会議としては、そうすることによって、地方公共団体が交付税に依存する姿勢を改めさせたいということのようです。この点が、これからの地方行財政の在り方と大きくかかわってくる部分です。

 

三位一体の改革は何のために行うのか

戦後50年以上、今日まで、地方財政については、地方交付税制度によってすべての地方公共団体、豊かな団体も貧しい団体も、教育や福祉その他の行政の面で住民にとって等しく一定のレベルが確保できるように配慮され、いわば財源保障機能を果たしてきました。

現在も地方財政法や地方交付税法は、そのような理念のもとに条文が規定されており、かつ制度の運用がなされていますが、地方分権改革推進会議では、この地方財源の保証という交付税制度の仕組みが地方の自立心を損ねているという認識に立ち、その財源保証という考え方を根本的に捨て去ろうということを主張しています。このような考え方に対して、地方分権改革推進会議の委員を務めている知事の代表や市長の代表は猛烈に反対をしました。現在の地方財政の基本的な仕組みを否定するということになるので、到底受け入れられないと主張しています。

地方自治体の関係者は三位一体の改革は何のために行うのかという点に関して、あくまで地方分権を一層推進するために行う、そのために国が細かいところまでチェックする補助金や負担金制度をなるべく廃止して、その分を地方が自分たちの判断で自由に使える地方税の税源に切り変えようと主張しています。そうすることが地方分権の推進に役立つ、地方の自主性の強化に役立つという考え方に立っておりますが、地方分権改革推進会議の議長や議長代理は、まさに地方の自主性を強化するという点の理解の仕方が少し違うわけです。

それは、自主性というよりも地方が責任をもつ、地方公共団体が自分の責任で地域の行政を推進する体制に切り替えることが地方分権の推進になるという理解のようです。これは、現在、進められている地方分権改革というものの内容をどう理解するかという問題そのものです。

私は、この三位一体の改革は、税源委譲と国庫補助金・負担金の削減縮小、地方交付税制度の見直し、この三者を同時並行的に行うということであり、それによって地方の自立性が強まるということでなければならないと思います。補助金・負担金は削減するけれども、その財源は将来、税制改革が行われるときに見直すということで、当面は地方への支出を削減することだけが先行するとなると、これは地方分権の推進ということにはならないのではないか。むしろ結果として地域経済の疲弊だけがもたらされることになるのではないかと憂慮しています。

しかしながら、国・地方を通ずる財政環境が一段と厳しさを増していることは間違いありません。地方公共団体が自らの改革努力をしないで、国からの税源委譲だけを主張するのであれば、国民の支持は得られないと思います。一方、国も行財政改革を行う上で、なかでも特に地方の自主性・自立性を強めるために国庫補助金・負担金をまず削減する。そして削減額に見合った額は国税から地方税への税源委譲でこれを埋めることを先行しなければならないと思います。

この改革を行えば、必然的に、地方交付税の総額は減ります。国税が地方税に移ると、その国税の一定割合としての地方交付税は当然減少しますから、私はそういう形で三位一体改革が行われることが望ましいと思います。

小泉総理が昨年、指示された考え方もまさにそういう方向ではないかと思います。

 

あくまでも地方分権を推進するための改革

ところで、国庫補助金の削減縮小ということは昔からいわれていますが、これは総論賛成各論反対の典型的な問題です。具体的にどういう補助金・負担金を削減するのかということになると、補助金・負担金を所管している省庁と改革を主張する省庁との意見が鋭く対立し、その上多くの場合、削減については、いわゆる族議員などが反対に回り、そのために、これまで本格的な補助金・負担金の整理削減はできなかったわけです。

今回、その改革ができるかできないかということは三位一体改革の大きなポイントだと私は思います。この点に関して、私は総理のリーダーシップが求められており、それを一つの突破口として国税から地方税への税源委譲が行われ、交付税の改革が行われるという形になるのであろうと思います。

ですから、三位一体改革は、税制改革と国庫補助金・負担金の見直しと交付税制度の改革の三つが同時に行われるべきものですが、実際の作業の手順から言いますと、まず、国庫補助金・負担金の削減が論議され、その結論に見合って国税から地方税への委譲が決まり、そしてそれに関連して地方交付税総額の減少を通じて交付税制度の改革が図られるということになっていくのだろうと思います。

いずれにしても、いま論議されております三位一体改革はあくまでも地方分権を推進するための改革でなければならなりません。そして、国の財政再建のための改革だけであってはならないと思います。

2003(平成15)年6月掲載

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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