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石原信雄の世相診断 Vol.15

「三位一体改革」は地方が元気を出せるように

4月に入り、どの地方公共団体も新年度予算の執行に取りかかっていると思います。通常であれば、この時期は新しい年度への期待を込めて、いろいろな新規施策の実施計画づくりに着手するなど、明るい雰囲気の中でスタートするものです。

しかし、2004(平成16)年度は少し様子が違っております。それというのも、平成16年度の予算編成に当たって、突然、政府が地方交付税をはじめとする地方に対する財源を大幅に削減することとしたためです。

小泉内閣は、三位一体改革というスローガンを掲げて、これからの自治行政は文字どおり地方公共団体が主体となって住民福祉を高めるための政策を企画・立案し、実行できるようにすると提案して、その実施が期待されておりました。

 

真の意味の地方自治を

そもそも三位一体という言葉はキリスト教に由来するものであり、父(天の神)と子(キリスト)と聖霊が一体であるという意味をもっております。小泉総理の三位一体改革は、これからの地方自治をより自立したものにするための改革を三つの要素、すなわち国庫補助負担金制度の改革、地方税制度の改革、地方交付税制度の改革を一体的に進めることによって、真の意味の地方自治を実現したいというねらいがあったはずです。

わが国の自治行政は、これまで行政のあらゆる分野にわたって国から補助金が交付されており、そのため地方公共団体が自らの判断で政策を立案し、実施する余地が少なかったのが現状です。このことが、国に対する地方自治体の依存心を強め、結果として行政の無駄が生じ、地域の実情に合った住民サービスがかえっておろそかになる原因となっていました。

こうした反省から、この際、思い切って補助金を廃止して、その財源を地方税の強化という形で地方自治体が自由に使える財源、住民が直接負担する財源に変えていく、そして同時並行的に地方交付税についても、あまり細かなところまで国がかかわらないように、なるべく地方の自主性を損なわないように改めていく、こういうねらいであったわけです。

小泉総理の言葉を借りれば、地方の自由度を高める改革、それが三位一体改革であったはずです。

ところが現実には、補助金の改革については補助金を所管する府省の反対が強く、当初4兆円規模の廃止が予定されていたのが、平成16年度は1兆円の廃止にとどまりました。しかもその内容は、必ずしも地方が期待したようなものではなかった。すなわち地方の自由度を高めるための補助金改革ではなく、単に地方に負担を押し付ける、負担を転化するという面も少なくなかったのです。

また、補助金改革に対応して行われることが期待された税制改革、すなわち地方税を強化するための税制改革については、税制の抜本改革が行われる時期まで先送りすることになり、平成16年度については、暫定的な措置が取られるにとどまりました。

 

三位一体改革と国の財政建て直し

一方、国、地方とも財政状態がたいへん厳しくなっております。そのことから、財務省は以前から、地方に支出する交付税を大幅に削減することを主張していました。本来、三位一体改革と交付税の削減による国の財政立て直しは別の問題でありました。

ところが、予算編成の過程で、三位一体改革の名において財政再建のための地方交付税の削減が強行されてしまったわけです。そのことが、国と地方の間の信頼関係を著しく傷つけてしまったと思います。

わが国の財政の現状を考えますと、これからも歳出の見直しは必要です。しかし、三位一体改革がねらいとした地方の政策選択の範囲を広げる改革、これはどうしても今後やっていかなければなりません。

2005(平成17)年度以降の予算編成においては、真の意味で地方公共団体が責任をもって地域の行政を執行できるように補助金制度の改革を更に前進させることが重要です。その内容は地方の政策選択の自由度を高める、文字どおり総理の言うとおり、地方の政策選択の自由度を高めるという内容の改革でなければならないと思います。

そのためには、その改革の枠組みを早く示すこと、具体的に言うと平成17年度の概算要求を決める段階で枠組みをはっきり決めることが大切です。同時に、その補助金制度の改革に対応する地方税源の充実については、すぐに実施することが困難であるならば、少なくともその方向性だけは決めておくべきであると思います。

具体的に言いますと、補助金制度の改革に対応して地方税源を強化すること、その場合、国税から地方税への税源移譲、すなわち所得税から住民税へ、さらに国税の消費税から地方消費税への移譲という方向性だけでも示す必要があると思います。

 

地方の現状に十分配慮を

なお、地方交付税制度については、その算定方法を簡素化し、地方の行財政運営に対する国の影響度を低めることが必要であると思います。しかし、税源移譲に伴って地域間の財源偏在がむしろ激化する恐れがありますので、総量としての地方交付税は減額するべきではなく、必要額を確保することが大切です。

そうすることによって初めて、地方公共団体が元気を出して地域経営に当たることができるようになります。すなわち三位一体改革そのものは、地方が元気を出せるような改革でなければならないと思います。

一方、財政再建は必要であり、そのために歳出の見直しは避けて通れない課題です。しかし、その際には、地方の現状に十分配慮して、各地方公共団体が地域の実情に応じて元気を出して地域経営ができるような、そういう環境のもとでの財政再建でなければならないと思います。

2004(平成16)年4月掲載

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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