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広がり続ける「広報力」空間~広報コミュニケーションの近未来を探る Vol.7

災害に向き合う「姿勢」を変えるコミュニケーション
~一人一人の主体的な防災意識を高めるために

本記事は、月刊「広報」連載「広がり続ける広報力空間~広報コミュニケーションの近未来を探る」から一部を抜粋したものです。

  • 片田敏孝
    群馬大学大学院 広域首都圏防災研究センター長・教授

「インフォメーション」ではなく「コミュニケーション」

災害情報を受け止めない理由は、人間の心理特性も関係している。身近な例でいえば、学校やビルなどにある非常ベル。非常ベルが鳴ってもほとんどの人は逃げない。非常ベルが鳴ることの意味は分かっているのに、なぜ逃げないのか。それは、人には「正常化の偏見」(正常性バイアス)という心の特性があるからだ。正常化の偏見とは「自分は大丈夫」と一生懸命思い込もうとする心の作用のこと。人は何かあると、自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりして「いつもと変わらず正常である」と心の状態を保とうとする。

こうした状態の人々に対し、災害情報を与えることによって正しい行動をとってもらうのは難しい。「家具の固定や耐震化の重要性は分かっている。でも、自分は大丈夫だろう」と受け止められてしまう。このように、災害情報の課題は、情報を受け取る側の「姿勢」にあるといえる。

では、その姿勢を変えるためにはどうすればよいのか。広報では「情報を知らせるだけでは伝わったことにはならない」と言われるが、災害情報も同じだ。災害情報を伝えるには、受け取る側が納得し、「共感」してもらうことが必要だ。

共感してもらうには、ただ伝えるだけのインフォメーションから、相手に伝わる災害情報、つまり、相手が理解し、行動できる災害情報にしなければならない。相手の気持ちをどう遷移させ、適宜、適切な情報を発出していくべきかを考える。災害情報により、受け手との「コミュニケーションを設計していく」段階に来ていると言っていい。コミュニケーションを設計するというと難しいかもしれないが、「情報を介した関係づくり」と言い換えることもできる。例えば災害情報の出し方に関してこんなエピソードがある。

九州のある村で水害に見舞われたが、犠牲者が少なかった。それは災害情報により、村民を適切な行動に導いた結果だった。大雨が予想されたその日の朝、役場からの全世帯に向けた一斉放送で「本日は相当な雨が予想されます。役場近くにある河川敷の駐車場は使用できなくなる恐れがあるのでご注意ください」と流した。その後、教育委員会から、大雨のため児童・生徒を早めに下校させるといった内容のアナウンスを放送。続いてJAから、強風のためビニールハウスが飛ばされないようにとの注意喚起の放送を随時入れていった。駐車場利用者、児童・生徒のいる家庭、農家と、本来全世帯に流す必要はない情報だが、それを聞いた住民の警戒モードが徐々に高まったことは確かだ。

これが何の前触れもなく、その時になっていきなり避難準備情報を出してしまうと、正常性バイアスが働いてしまい、「自分は大丈夫だろう」と考え、避難の意思決定ができない可能性があった。警戒心を高めた上での避難準備情報。人は最初の情報は無視するが、二つ目の情報で行動するという心理特性もある。情報の出し方の工夫により、災害への「姿勢」を短時間で変えていった好例だ・・・・・・

 

※記事の全文は、月刊「広報」2016年5月号でお読みいただけます。

かただ・としたか

1960年岐阜県生まれ。2005年から現職。10年から広域首都圏防災研究センター長も務める。専門は災害社会工学。平成23年度日本災害情報学会廣井賞受賞。内閣府中央防災会議「災害時の避難に関する専門調査会」委員、国土交通省「水害ハザードマップ検討委員会」委員長、気象庁「気象業務の評価に関する懇談会」委員などを歴任。著書に、『人が死なない防災』(集英社新書)、『3.11釜石からの教訓 命を守る教育』(PHP研究所)、『子どもたちに「生き抜く力」を~釜石の事例に学ぶ津波防災教育~』(フレーベル館)、『みんなを守る いのちの授業~大つなみと釜石の子どもたち~』(NHK出版)。

 

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