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「聞く」から「聴く」へ…地方自治新時代の広聴とは

戦後地方自治の上で、行政と住民との“付き合い方”は、「住民運動」~「住民参加」~「パートナーシップ」と変わってきた。かつて戦後の復興期から“地域の均衡ある発展”を目指したころまでは、まちづくりのスタイルは画一的かつ行政主導で、まちづくりへの意見・要望を行政に届けるには、住民は「運動」を起こさざるを得なかった。しかし、住民の関心が生活の質の向上に向いてきた70~80年代ごろから「住民参加」が言われ出し、各種審議会や住民意識調査、行政モニター制度など、積極的に住民の意思を聞き取る努力がなされ始めた。今日、各自治体で実に多様に工夫され行なわれている広聴の手法、つまり首長への手紙・FAX・Eメール・目安箱・地区懇談会等々は、その延長上にある。

そして、2000(平成12)年4月から地方分権が始まった。住民と行政は対等・協力関係に立ち、「パートナーシップ」でまちづくりを進める時代~まさに「地方自治新時代」を迎えたのである。今日、NPM(新公共管理論)の理念をもち出すまでもなく、地方行政の使命はひとえに「顧客主義=住民満足度の向上」にある。だから、これからの行政にとって最も重要な経営要素は「民意」であり、地域経営の原点は「民意の反映」である。

ところで、これまでの行政は、「民意」とどう向き合ってきただろうか。私たちはおおむね、住民の意見・要望を「いかに聞き」、「いかに対応(回答)」するかに腐心してきた。それは、あくまでも行政と住民とのコミュニケーションというレベルでの努力である。しかし、「民意」を地域経営の重要な要素としたとき、「広聴」をコミュニケーションのレベルで捉(とら)えるのみでは充分とは言えない。「民意」と言ってもそれは多様である。まず、「ミーズ」と「ニーズ」がある。前者は極めて個人的な欲求で、後者は多くの人々の共感を呼ぶ欲求である。経営効率から言えば「ニーズ」を重視したいが、大切にしたい「ミーズ」もある。「さらに「民意」には、極めて日常生活レベルの欲求(生活ニーズ)から、世のため人のためにわが町がどうあって欲しいかといった欲求(まちづくりニーズ)までの様々な段階がある。また、広聴は「いかに聞き…」といった前述の「仕組み」の工夫以上に、「住民の真意を的確に把握する努力」が伴わなければ空疎である。まさに「聞く」から「聴く」である。

地方自治新時代の「広聴」には、地域経営の視点から「民意」と向き合うしっかりした理念と手法の確立が求められる。

うらのひでかず

あしコミュニティ研究所所長。日本広報協会広報アドバイザー、広聴セミナー講師。1946(昭和21)年生まれ。埼玉県川口市役所勤務を経て現職に。

 

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