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Net de コラム Vol.8 

無難路線を考え直そう

「本日は都合により休ませていただきます」

そば屋や喫茶店の店先で、よく見かける張り紙である。休みを知らせる場合、単に「本日休業」でも意味は通じる。それに比べて、「本日は…」はかなり丁寧で、休むという自分で決められる行為に、他人の許可を得る形式の「させていただく」を付けている。

商売の世界では、とかく下手に出て客の機嫌を損ねないことが大切。そこで、自分の勝手な行為であろうと、客中心の物言いをしたほうが無難だということになり、「させていただく」が多くなる。それが、商売の世界から一般化し、やたら「させていただく」を使う人が現れる。選挙運動中、「選挙に立候補させていただき、当選させていただいて、改革を実行させていただきたい」などという立候補者まで現れる始末である。

この「無難さ」を重視する考え方は、広報の世界にも見られる。例えば、表現に「など」を付けることもその一例。「卒業式には、両親や家族などが出席した」とする。「両親や家族」と言い切ると、そうでない人もいるから正しくないと考える。そこで、無難さを求めて「など」を付けることになる。

また、一般に、広報の記事で具体的な説明が少ないことも無難さと関係がありそうだ。例えば、条例が改正されたとき、どういう人がどのような影響を受けるかの具体的な説明があると、イメージがわいて分かりやすい。しかし、そのような具体例にはさまざまな場合が考えられ、下手に例を挙げると特殊な場合が一般化されて誤解を招くこともある。そこで、無難さを選ぶと、具体的に述べることは避けられることになる。

さらに、無難さを重視する考え方は、広報紙のテーマから暗い話題や問題を指摘する話題を外そうとする傾向にも及ぶ。そのような話題は読んでも楽しくはないし、批判される立場の人は不愉快に思う。そこで、そうしたものを扱わなければ、事は無難に収まると考えがちになる。

しかし、無難さを重視して、重要なことを取り上げないのでは本末転倒である。無難さを求めていては、言いたいこと、言うべきことが言えなくなる。無難な表現は、言わば及び腰の表現であり、読み手の心を打つことができない、力の弱い記事を作ってしまう。

広報担当者に、無難さを求める態度を捨てて、しっかりと内容を伝える記事を書くことをお願いさせていただきたい

さたけひでお

1947(昭和22)年生まれ。 武庫川女子大学教授、言語文化研究所長。国立国語研究所を経て現職に。日本広報協会広報アドバイザー

 

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