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広報紙づくりは広報活動の中に

  • 白木 一誠
    (株)フォーチューングラフィックス代表取締役/メディアプランナー

「え~それでは、そろそろ時間もなくなりつつありますので、最後にみなさんの広報紙づくりについて、何か質問などありましたら、ご遠慮なく質問してください」

年間を通じ何回か県外の広報課の方からの講演依頼を受け、短くて2時間、長くて4時間の講演を終えようとするころ、決まって私はこの質問をさせていただく。すると、皆さんは短い講演時間でもとても良くご理解いただけたのか、質問はほとんどされない。

我々が過去にデザインの専門教育を受け、その業界で20年以上も実績を積み重ねていても、デザインそのものの奥深さは限りがない。その奥深い技術的、精神的な世界を行政広報紙の制作担当の方々は2~3年でマスターしようというのだから、そのご苦労は想像をはるかに越えるものがあると認識している。言わば紙面情報の秩序構築理論であったりもするのだが、そこに、理論のみが先行しても決して紙面は生き生きしてこない。配慮なき紙面構成や秩序のない情報享受は読み手に不快感を与えてしまいかねない。毎日毎日来る日も来る日も紙面を埋めることに没頭し、取材に明け暮れ、夜遅くに印刷業者との入稿打ち合わせの連続…。まるで出版者に入社したての編集者のようである。だかしかし、考えていただきたい。自分は今どこへ向かって歩んで、何を目標に目指しているのか? この広報紙作成業務の最終ゴールはどこなのか? を。広報紙作成業務は手段であって、目的ではないはず。

前置きが長くなってしまったが、まさに、その『手段と目的』という指針がブレていないと、広報紙作成業務にも、ムダとムラがなくなる。短絡的、技巧的なことよりも、本質的、理念的な価値基準で行動ができる。動きが効率的かつ効果的になってくるはずである。したがって、私のような外部の講演者が短い時間ではあるものの、より専門的な講話をさせていただく折には、良い意味で我々をもっと困らせる質問などをどんどんぶつけていただきたいものだ。「4段組みと5段組みの使い分けがよくわからない…」よりも「お年寄りのために本文を大きくかつ情報もたくさん盛り込みたいがどうすればよいか?」のほうが広報紙全体をダイナミックに見渡して検討するに値する質問であるようにも思える。何より、読み手の顔や声を担当者が意識していることがうれしい。

よく広告表現提案の場合、作り手が発注者ばかりに意識が働き、消費者に意識が及んでいなければ、必ずそのアド戦略は失敗に終わる。それはお金を出すクライアントの言うことを聞きながら仕事をするほうがずっと楽なのである。志向の異なる潜在ユーザー意識を分析し、熱烈に想像しながら広告戦略を立てていくことのほうが3倍はエネルギー消費は大きい。

打ち上げ花火のような表現力過多なデザインではなく、ほど良く華美であり何よりも常に安心できるコミュニケーションメディアであるために、強い普遍性をもって広報紙作成を『手段』として取り組んでいただきたい。そして、そのことが最終的に地域に浸透し、あって当たり前でなく、なくてはならない広報紙にするための活動という『目的』をきちんと見据えた活動であってほしいと願う。

しらきいっせい

1958(昭和33)年生まれ。企画印刷会社のデザイナー、ディレクターを経て現職に

 

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