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Net de コラム Vol.30

広報活動における個人情報保護

  • 山崎 文明
    工学院大学講師として技術者能力開発センター講師

個人情報に対する生活者の意識変革への配慮

2005(平成17)年年4月から本格施行された「個人情報保護法」の影響もあって、生活者の個人情報に関する意識は、ここへきて大きく変化している。報道されない日がないのではと思えるほど個人情報の漏えい事件・事故が後を絶たない。個人情報保護法の施行を受けて個人情報の漏えい事件・事故を起こした企業が主務大臣への届出を積極的に行うようになったことがその背景にあるのだが、最近になって個人情報の漏えい事件・事故が急増している印象は、ぬぐえない。結果として、生活者自身の個人情報に対する防衛意識に変化が生じ始めている。

 

個人情報の掲載を拒否する父兄の心情に対する理解を

電話セールスやダイレクトメールの出状者に対して、個人情報の入手経路を問いただす例はもとより、個人情報保護法の拡大解釈ともいえる現象も散見される。学校の緊急連絡網やクラス会名簿に住所・氏名の掲載を拒否する父兄の存在はもはや珍しいものではない。こうした報道を目にしたとき、読者はこうした事象をどう受け止めておられるのだろうか。新聞報道に代表されるように大方の思いは、いき過ぎた個人情報保護への批判ではないだろうか。いま広報をつかさどるものにとって重要な課題は、学校の緊急連絡網やクラス会名簿に住所・氏名の掲載を拒否する父兄たちの心情が理解できるほどに感性を高めることではないだろうか。地番まで知られることで社会的に不利益をこうむるのではないかと不安を抱く人。昨年まで掲載していた父親の名前を離婚したがゆえに母の名に置き換えなければならない人。両親が離婚したことをクラスメートに打ち明けられないわが子への思いやり。家庭内暴力からやっとの思いで逃れてきた人。人それぞれに理由は異なれど深刻な問題を抱えているケースは、多い。

 

住所・氏名が記載されていれば個人情報

今年(2005(平成17)年)、ある自治体で住所や氏名などの市民情報が記載された住民票などの申請用紙を廃棄処分するためトラックで搬送していたところ、用紙が入った紙袋が高速道路で荷台から転落し、路上に数千枚の用紙が散乱するという事故が発生している。この事故に対して担当者は、「公文書とは違い悪用の恐れは少ないが、不用意な散逸が繰り返されないよう再発防止に努める」、「厳密には個人情報とまで言えないかもしれないが、住所や名前が入る文書に関しては、今後はシュレッダーにかけて廃棄する」とのコメントを発表している。「公文書とは違い悪用の恐れが少ない」とは、何を根拠にと言いたくなる。まして「厳密には個人情報とまで言えないかもしれない」とは、何をかいわんや。住所・氏名が記載されていればれっきとした個人情報である。こうした広報は、市民感情を逆なでするだけであることは、明らかだ。広報担当者の感性が疑われてもやむを得ない。

 

生活者のプライバシーに対する思いやりと尊厳を

広報担当者が考慮すべきは個人情報保護法の逐条ではなく、生活者のプライバシーに対する思いやりと尊厳である。生活者の身になってプライバシーに配慮する姿勢がますます重要になる。

やまさきふみあき

1955(昭和30)年生まれ。大手監査法人にて永年システム監査に従事、2000(平成12)年4月に情報セキュリティを専門としたコンサルティング会社グローバルセキュリティエキスパートを設立、2005(平成17)年8月同社取締役会長就任。2004(平成16)年から工学院大学技術者能力開発センターにて情報セキュリティ技術者の育成に従事。『すべてわかる個人情報保護』(日経BP社刊)、『情報セキュリティと個人情報保護 完全対策 改定版』(日経BP社)など情報セキュリティに関する著書多数。

 

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