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クライシス・コミュニケーション頼み?

  • 平能 哲也
    広報・危機管理コンサルタント

クライシス・コミュニケーションの浸透

いつ起こるか分からない災害、事件、事故。こうした緊急時の広報の在り方が、組織・団体の死活問題につながるケースも少なくない。そのため、危機管理広報活動の中で、自治体や企業の広報担当者にとって最も関心の高いものは、「クライシス・コミュニケーション」であろう。「クライシス・コミュニケーション」とは、危機発生直後の、各ステークホルダー(利害関係者)に対する迅速で適切なコミュニケーション活動のことであるが、中でもメディア対応の優劣は、その後の被害の大小を決定づける重要なポイントとなる。

「クライシス・コミュニケーション」における準備活動としては、「事例収集」「緊急時広報マニュアル」「模擬緊急記者会見トレーニング」「緊急時広報をテーマとした研修・セミナー」などが必要である。これらの準備活動は、ここ数年、企業を中心に積極的に実施されている。また、自治体においても、すでに実施している、あるいは実施を検討しているところも増えているのではないだろうか。

広報にとっての「クライシス・コミュニケーション」の重要さを考えれば、準備活動が徐々に浸透してきたことは大変良いことである。

 

平常時の情報収集・分析活動の重要さ

しかしながら、企業や自治体の広報担当者は、「クライシス・コミュニケーション」の準備が整備された段階で、安心して良いのだろうか。答えはもちろん「NO」である。「クライシス・コミュニケーション」はあくまで危機発生後の2次被害防止活動であり、危機自体はすでに発生してしまっているという事実を再認識する必要があるだろう。

自治体や企業の広報担当者が平常時に行うべき重要な活動の一つは、様々な危機発生事例の収集に加えて、その問題点の検証や、リスクに発展する可能性のある気になる情報を、自治体や企業のトップ、幹部職員・社員にふだんから提供して、危機管理に対する意識を高めてもらうという戦略的な情報収集・分析活動なのである。それは結果として、危機発生の抑止効果も期待できるのだ。

 

「クライシス・コミュニケーション」の先にあるもの

危機管理広報の観点で情報収集・分析活動を実行している自治体や企業の広報担当者は、もちろん多く存在していると思うが、私が心配するのは、危機管理広報において「クライシス・コミュニケーション」のみがクローズアップされることにより、「緊急時の広報対応の準備はすでにできているから、危機が発生しても大丈夫」といった広報担当者のおごりや油断、危機管理に対する意識の低下につながる危険性である。

自治体や企業の広報担当者には、「危機が起こったときにどうするか」にとどまらず、「危機を発生させないために広報として何ができるのか」という一歩進んだ危機管理広報の意識を望みたい。

ひらのてつや

1958(昭和33)年東京都生まれ。学習院大学を卒業後、PR会社に16年間勤務。1998(平成10)年にフリーランスの広報・危機管理コンサルタントとして独立。主な著書に、『実践!ネットワーク社会の危機管理』(竹内書店新社)、『苦情対応システム リスクマネジメントマニュアル』(共著、通産資料調査会)がある。

 

ここ数年、広報活動において、危機管理やリスクマネジメント、クライシス・コミュニケーションが注目されています。このような能力は一朝一夕に身に付くものではなく、組織全体の体質に大きく関係することであるため、ふだんから準備を行い、危機を招かないようにしておくことが重要です。また、万一、危機が生じた場合にも、迅速に対処できるよう、マニュアルを作成したり、対処法をトレーニングしたりしておく必要もあります。

平能氏には、2006(平成18)年10月30日(月)に、東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催される、当協会主催の第5回医療機関広報フォーラムにて、「医療機関における危機管理と緊急時対応」と題して、講義と演習を行っていただきました。

 

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