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広報研究ノート その他

月刊「広報」2003年2月号初出

ブランド性を高めるための「C」「S」「D」がシンクロしたコミュニケーション

特定非営利活動法人日本NPOセンター副代表理事
法政大学現代福祉学部教授
山岡 義典

今日、NPOという言葉が新聞やテレビなどマスコミに登場しない日はありません。それだけ、社会の重要なセクターとして、NPOが位置付けられるようになってきたのだと思います。しかし、NPOという言葉は知っていても、個々のNPO――ここでいうNPOとはあらゆる分野の市民活動団体等の民間非営利組織のことで法人格の有無や種類を問わない――がどのような組織で、どのような活動を行っているかは、あまり知られていないのが現状です。

 

情報発信は命

そういった状況のなかで、NPOの社会的地位をより高めていくというのが、われわれ日本NPOセンターの役割の一つでもあります。そのような目的のために、各種の講座を開設したり、全国的なフォーラムを開催し、NPOはもちろん企業や行政の方にも集まってもらい、互いの交流を図ったりもしています。

また、出版物を発行したり、ウェブサイトも開設したりして、NPOの社会的存在――民間の中にあって営利を目的としない活動を行う組織というものが社会にとっていかに重要な意味をもっているか――を積極的に広報しています。2001年4月には、センターのウェブサイトとは別に、「NPO広場」というウェブサイトを開設しました。このウェブサイトは、NPOについての市民や企業の理解を深めるとともに、その活動への参加を促すことを目指して設けたもので、全国のNPO法人のデータベースにより、団体名や地域名で検索することができます。NPO法人に関する情報を集めた基本的なサイトといってもいいでしょう。

一方、個々のNPOにおいても、常に情報発信をしています。ニューズレターを発行したり、HPを開設したり、組織によってそのやり方は異なるわけですが、NPOにとって、人や情報、資金などを集めるための発信は命といってもいいくらいです。費用や人材などで苦労している面もありますが、特にインターネットが普及するようになってからは、それは活発に行われるようになりました。

 

二つの広報対象

個々のNPOが広報していく場合、二つの方向に向かってする必要があります。

一つは受益者に向けての広報です。企業でいえば、財やサービスを購入する消費者ということになります。そのNPOが行っているサービスを受ける人たちに向けて、サービスの利用などを訴えかけていくということです。

しかし、NPOにとって重要なのは、これら受益者に向けての広報だけではありません。それは、NPO活動を支援してくれる人たちへの広報です。これが、もう一つの広報です。会員であったり、寄付をしてくれる企業や有志であったり、ボランティアとして参加してくれる若者であったり……。そのような支援者をどこまで幅広く獲得できるか、それがNPOにとっては重要であって、そのための広報が大きな意味をもってくるのです。

では、具体的にどのような方法で広報していけばいいのか。現在では、いずれの団体においても、電子メディアとしてはメーリングリストやウェブサイトなどを効果的に活用しており、実効を上げています。しかし、従来の紙メディアによる効果の重要性を指摘し、それによる情報発信に力を注いでいる団体が多いのも事実です。

確かに、受益者や支援者のなかには、電子メディアに馴染みにくい人もいるでしょうし、電子メディアを使い慣れている人にとっても、紙ベースによる情報提供を望む人もいるでしょう。電子メディアがこれからのNPO活動にとって欠かすことのできないものであることは言うまでもありませんが、それだけに頼る時代になったとはまだ言い切れません。今現在は、その両方を使い分けながら、バランスよく広報していくという段階でしょう。

例えば、トピックス的な話題やイベント開催の情報といったフローの情報(時限性のあるニュースなど)は、電子メディアが向いているといえます。一方、活動報告書や財務状況を伝えるようなストックの情報は、紙メディアが適しています。このように、発信する内容に応じて、その対象によっても使い分けていくことが大切です。

 

人と人とのコミュニケーション

NPOの広報ではマスコミの活用も大事になってきます。効果としては、これがいちばん大きいと思います。しかし、これも注意が必要で、マスコミばかり相手にしていると、記事になりやすいことばかりに目を向けてしまい、基本的な活動がおろそかになりがちです。

アメリカのNPOには、会員拡大のために、新聞広告を活用している団体もあります。思い切った投資で、組織の活動をアピールしています。日本ではそういった例はまだ、あまりありません。まだまだ控えめです。広報はやはり二の次になってしまっていて、広報へのエネルギーの注ぎ方が少ないといえます。

しかし、NPOにとって広報こそが命ともいえるわけですから、経費の問題もあるでしょうが、こういったもっとアグレッシブな広報というのにも、今後期待したいと思います。

また、手作りの広報がいいか、センスのいいプロフェッショナルな広報がいいかという問題もあります。高いセンスで素晴らしい媒体をつくって情報発信しているNPOもいます。一方で、手作りのよさというのもやはりあるわけで、要は、いかに継続的に広報されているかが重要なわけです。そういったNPOの広報は一目見ただけでどこの広報か分かります。それが次第に、そのNPOにとってのブランドになっていくのです。

広報でいちばん大事なのは双方向性で、対象との応答関係をつくっていくことが理想です。しかし、多くのNPOにおいて、まだ、そういった段階までには至っていないのが現状です。

一方で忘れてはならないのが、直接的な人間による広報です。人対人による広報は、NPOにおいて、ほかのどの分野の広報と比べても、はるかに密度が高いといえます。人と人とのネットワークです。ほとんどのNPOは小さな組織ですから、だれかが命令して常に動くわけではありません。そこには、スタッフ一人一人の意識が重要になってきます。そういった人間関係のなかで、NPOのブランド性を高めていくことができるのが、人間同士によるコミュニケーションなのです。

私は、NPOが広報するうえで、「C」「S」「D」が大事であると思っています。

「C」はコンセプト、考え方。「S」はストラクチャー、構造です。「D」はデザイン、姿ということです。この三つがうまくシンクロして初めて、効果的な広報が実現できるのです。コンセプトはないけれども姿だけはいいとか、姿はきれいだけれども構造がよく見えないとか、あるいは、コンセプトはいいけれども出てきた姿がどうもピンとこないとか、そういった例がたくさんあるわけです。なかなか三位一体というのは難しいかもしれませんが、一つでも欠けてしまうと、思いがきちんと伝わらないものになってしまいます。

このC・S・Dは、NPO以外のほかの分野でもあてはまります。企業でも行政でも。単に媒体製作におけるC・S・Dだけでなく、組織を運営する上でのC・S・D、イベントを企画・開催する上でのC・S・Dなど、つまり、広報するに至る過程のすべてに当てはまる法則なのです。

 

行政との関係を考える

地域においてNPOが力強く成長していくための支援が行政によって行われる一方で、NPOの自主性などを尊重したうえで、協働で取り組んだり、委託したりするケースは今後は増えていくと思います。

その際に、行政がこれまでやっていたことと同じことをNPOがやったのでは意味がありません。そのNPOならではのことをやらなければならない。行政には、とかく新しい発想に対してあまりかかわりたくないという意識が働きがちですから、トラブルになることも考えられます。しかし、そこで新しい息吹を感じ取って、お互いが、組織のいいところ、悪いところを知ったうえで、付き合っていく必要があります。

行政活動のなかでも、情報の編集という分野はNPOに任せやすい分野ではないかと思います。例えば、東京の狛江市では、市民活動に関する情報誌の編集をNPOに任せています。

注意しなければならないのは、最終的な編集責任を明確にしておくことです。課題はまだほかにもあると思いますが、将来的に、そういった方向に進んでいくことは間違いないでしょう。

●NPO法人データベース「NPO広場」

http://www.npo-hiroba.or.jp/

全国のNPO法人検索、企業のNPO支援情報、NPOに関するQ&Aなどを掲載。

 

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