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連載コラム

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広報って何? 悩める広報担当者の右往左往

執筆 : 田上富久(前長崎市長)

公開日 : 2025年7月9日

職員時代に13年6か月にわたって広報を担当。その後16年に及ぶ市長在任中も広報の大切さを実感してきた前長崎市長・田上富久さんによるエッセイです。

第14回 委託って何

二つの委託

越えないといけないもう一つのテーマは「委託って何?」ということでした。当時の私は、これが分からないと自信をもって委託をスタートすることができない、と感じていました。それには前々回でお話ししたように、理由がありました。
一度目の広報課では、先輩たちが写真の現像や印刷をしてくれる人たちをリスペクトする様子を毎日のように見ていました。だからでしょうか、そのあと経験した部署で、委託先の人たちを“上から目線”で使おうとする同僚の様子に触れることがあると、強い違和感を覚えました。この二つの態度には、委託や事業者に対するスタンスに根本的な違いがあるように感じたからです。
この違和感の意味が分かっていないと、委託に臨む自分のスタンスがふらつくかもしれないばかりか、いい成果が得られない。そう感じていました。

 

 

違和感の正体

「あの時の違和感の正体はなんだろう?」
違和感の一つは“丸投げ”のような態度でした。
委託の場合、そもそも本来はこちらの仕事であるという前提があります。それを誰かにお願いしてやってもらうのが委託だとしたら、あくまでも結果の責任はこちら側にあります。「委託したらあとは相手任せ」のような態度をみるときに覚えた違和感は、この根っこの部分がズレていたからでした。
もう一つ、違和感を覚えたのは“上から目線”でした。
こちらの仕事を誰かに任せるということは、お願いして受託してもらうということです。そこにはお互いが交わした契約があり約束があって、基本は対等の関係です。
ただ、理屈ではそうでも、現実には発注者が受注者よりも強い立場になりがちです。弱い立場の受注者は言いたいことを我慢してしまったり、納得していなくても発注者のわがままに付き合うことになったりしがちです。
「もし自分が受注者だったとしたら、そういう関係の中で全力を尽くせるかな?」
自分に聞いた答えは「ノー」でした。つまり、受託者に力を発揮してもらい、いい結果を出そうと思ったら“上から目線”はぜんぜん賢くない態度ということになります。特に、編集のように創造性が必要な仕事を委託する場合、創造性を発揮させない関係になってしまうことが致命的なのはいうまでもありません。
そんなふうに考えているうちに、委託のイメージが湧いてきました。

 

 

委託はチームづくり

「外部のメンバーと一緒にチームをつくって、チーム全員で目指す結果を出すこと」
これが、そのとき見つけた委託のイメージでした。
自前編集は、あらためてチームをつくらずに、内部のメンバーだけで目指した成果を実現する方法。一方で、委託編集は外部のメンバーを入れて、その仕事のための臨時チームをつくって、目指した成果を実現する方法というわけです。
となると、どんなメンバーにチームに入ってもらうかはとても重要です。当然こちらの企画をよく理解してくれて、その実現に必要な力を持っているメンバーを選ぶ必要があります。得意分野を見極め、いいチームになれるかどうか、考え方を知る必要があります。選び方はコンペやプロポーザルなどいくつかの方法があるので、内容によって選択します。いいチームができれば、企画の実現にかなり近づきます。
企画を実現するために参加してくれる大事なプロのメンバーに対して、リスペクトはあっても“上から目線”になることはありません。役割分担はあっても“丸投げ”はありません。いい関係の中で目標を共有して成果を上げていくこと。これこそ委託の本来のあり方であり、最強のチームをつくる秘訣でもあります。
「よし、飛び切りのいいチームをつくろう!」
こうして腑に落ちたところで、ようやく編集委託に取り掛かるスタート地点に立つことができました。

 

 

執筆者紹介
田上 富久(たうえ とみひさ)

1956年長崎県岐宿町(現・五島市)生まれ。80年長崎市役所入庁。26年7か月の職員時代のうち13年6か月が広報担当。2007年4月長崎市長就任。23年4月まで4期16年務め、その間、長崎県市長会会長、九州市長会会長のほか、被爆都市の市長として、日本非核宣言自治体協議会会長、平和首長会議副会長などを務める。好きな言葉は「一隅を照らす」「人間万事塞翁が馬」。現在は、長崎地域力研究所代表などを務める。

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