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広報企画に知恵と熱意と、ちょっとの勇気を

  • 澤 茂樹(広報コンサルタント)
    株式会社澤茂樹事務所・代表

ここ数年来、自治体の広報活動に相応の変化が見られる。ひとつは、行政広報の重要性が増大し、首長はじめ職員にもそう認識されてきていること。いまひとつは、広報メディアが多様化・高度化してきていることが、その背景にある。とは言え、広報部署の予算は経費節減のあおりを受けており、必然、(幸か不幸か)広報担当者が大いに知恵を働かせなければならない事態に至っている。

広報コンクールの「広報企画部門」開設以来の審査員をさせていただいているが、そこに応募される企画の推移を見てもその傾向が確認できるし、また広報アドバイザーとしての現場感覚としても実感されるところである。

広報における知恵の働かせどころとしては、まずは「メディアミックス」の展開が挙げられよう。昨今、広報紙とウェブの連動、広報番組とホームページの相互誘導などが一般的になってきた。また、「人の活用」も様々にチャレンジされている。首長自身によるトップセールスをはじめ、広報番組への職員の登場、企画・編集から制作・配布・広告導入における民間専門会社の起用、コンテンツ作りにおける地域リーダーとの協働や市民登場機会の拡充などである。いずれも、より効果的で効率的な広報のあり方を追求する創意工夫として評価できるものである。

しかし、企業のそれと比較すると、まだまだ不足している点も多く目に付く。詳しく述べる余裕はないが、端的に言って、企画の戦略性や波及効果の設計が甘い。また、広報対象のセグメンテーションがゆるく、広報テーマやメッセージのコンセプチュアルな絞り込みも不十分である。もちろん、いわゆる「お知らせ広報」の要請を引きずりつつ、一方で広報紙や広報番組の締め切りに常に迫られるといった現実的な事情があることは承知しているが、ここはひとつ、「お知らせ広報」と「戦略的広報」の両立にも果敢に取り組んでいただきたい。

そんな中にあって、2008年「広報企画部門」の入選企画に、この課題をそれなりに超えたかなと思われる事例が見られた。2事例だけ紹介しておこう。

ひとつは広島県東広島市の「障害者福祉」広報である。「本人が変わる、地域が変わる、広報で変える」の副題がついている。内容的には、障害者自立支援にかかわる計画概要の制作・配布とフォーラムの開催、そして広報誌による実例の紹介などであるが、この広報誌にとりわけ本腰を入れている。まさに「本人が変わる、地域が変わる」の基本姿勢を一貫させながら、5回の多きにわたって特集を展開しているのである(「シリーズ・ノーマライゼーション」)。審査会でも、市および広報担当の強い意志や姿勢が伝わる活動として高く評価された。

もう一例は、静岡県沼津市の「技能五輪ガイドブック」である。2007年11月に当地で技能五輪国際大会が開催された。そのガイドブックを作ったというだけなら何ということもないが、通常のお知らせページを挟み込む形で、市の広報誌(11月1日号)をまるごとそれに当てたというところが特筆点である。編集の出来もさることながら、まずはその思い切りの良さが評価された。ガイドブックは近隣エリアや首都圏からの来場者にも配布されており、シティプロモーションの一環ともなっている。ものづくりが市の重点施策でもあり、まさに「戦略的な」広報誌づくりと言っていいだろう。

この2事例に共通することは、戦略的発想もさりながら、それ以上に広報担当者の「知恵」と「熱意」が広報物の向こう側に透けて見えることである。そして、これまでの広報紙づくりの通念を超えて見せた(しかし簡単にできることではない)「ちょっとの勇気」である。まさに「広報で変える」気概、そのことにこそ注目していただきたい。

 

さわ しげき
1946(昭和21)年生まれ。株式会社電通で、コーポレートコミュニケーション、ブランド戦略、地域活性化、行政広報のプランニング及びプロデュースを数多く担当。2006(平成18)年12月、コンサルティング会社を設立。企業経営、地域経営、行政経営の領域において、コミュニケーション(広報)を基軸とした問題解決を幅広く展開している。

 

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