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連載コラム

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広報って何? 悩める広報担当者の右往左往

公開日 : 2025年5月25日

第8回 会話する広報紙

広報紙のイメージが変わる

 前回や前々回でお話ししたように、広報紙の表情の違いや一人に伝えることの大切さに気付きだすと、自分の中の広報紙のイメージが変わってきました。広報紙が表情や口調などの個性をきちんと持った、まるで「人」のようなイメージになってきたのです。

 「広報紙くん」(くんでもさんでもいいのですが)は、毎月1回、市内のほとんどのお宅に伺います。もちろん毎月2回やってくる広報紙くんもいれば、週1回の広報紙くんもいて、まちによって違います。

 前々回お話ししたように、まちによって、ネクタイをした広報紙くんもいれば、普段着で勝手に家の中に入ってくるような広報紙くんもいます。

 広報紙くんの最初の勝負どころは、手に取ってもらえるかどうか。だからこそ広報紙くんの表紙はとても大事です。なんとか手に取ってもらえたら、次はめくってもらえるかどうか。読んでもらえるかどうか。広報紙くんは次から次に訪れる関門を全部クリアして、その人にとって大事な情報をきちんと届けるという役目を果たそうとします。

 

話しかけてくる広報紙

 魅力的な広報紙に共通しているのは、手に取った時、自分に話しかけてくるような気がすることです。読みながら、まるで広報紙と会話しているような気がするのです。

 特集のページは、知らなかったことをよく教えてくれるので、読者は「へえ~」とか「そうか…」と反応することが多くなります。お知らせのページは、「お、健診があるのか」「いつ?」「どこで?」など、次々に出てくる疑問に広報紙くんが要領よく答えてくれます。

 時々、AさんとBさんの会話スタイルで進めるお知らせコーナーを見かけることがあります。Aさんが投げかける疑問にBさんが答えてくれるという設定です。そのコーナーはまさしく読者がAさん、広報紙くんがBさんです。Aさんが読者の代わりに質問してくれて、広報紙くんがBさんになってそれに答えてくれるのです。読み終わると「よく分かったよ。Bさん、ありがとう」と言いたくなるくらい見事に分かりやすく解説してくれるBさんもいます。専門用語が多くて、説明も長くて、ちょっと分かりにくいBさんもいます。解説上手のBさんだと、ほかのページでも分かりやすく教えてくれるので、読者との間に知らず知らずのうちに信頼関係が生まれます。

 

目標が見つかる

 そんなふうに考えるようになって初めて、広報紙の本当の役目は、情報を届けることを通じて信頼をつくることなんだ!と気づきました。

 ひょっとしたら広報の教科書の1ページ目に書いてあったかもしれない大事なことが、ようやく実感を持って腑に落ちた気がしました。頭で分かった気になっても、本当には分かっていないことがよくありますが、これはまさにそうでした。

 それからは読者と会話できる広報紙を目指しました。

 もちろん、そう思うだけで一気にいい広報紙がつくれるほど簡単ではありません。たとえば会話スタイルで記事をつくる場合、まずはAさんがいい質問をしないといけません。Aさんの質問が読者の疑問を代弁していなければ、読者はAさんを自分自身だと感じることができないのです。でも、情報を詳しく知っている私は、情報を知らないまっさらな読者の気持ちになり切れないときがあります。

 そこで私は記事がある程度できると、家に持って帰って妻に読んでもらっていました。妻はほとんど予備知識を持たないし、遠慮なく指摘してくれるので、こういう時のモニターには最適なのです。

 妻は「フーン、ふむふむ…」などと言いながら読んで、「こことここが分からない」と指摘してくれます。それが一つ二つだといいのですが、あまり多いとだんだんムカムカしてきます。「書くほうの苦労も知らないクセに!」「明日までにこれを全部書き直すのは大変なんだぞ!」と言いたくなるのですが、頼んだ手前、グッと飲み込んで「分かった。ありがとう」と新しい宿題を抱えて出勤します。

 でも結果は毎回、「聴いてよかった」でした。いつも前よりも確実によくなったからです。そんなふうに四苦八苦しながら、いい会話ができる広報紙を目指し続けました。

 

 

執筆者紹介
田上 富久(たうえ とみひさ)

1956年長崎県岐宿町(現・五島市)生まれ。80年長崎市役所入庁。26年7か月の職員時代のうち13年6か月が広報担当。2007年4月長崎市長就任。23年4月まで4期16年務め、その間、長崎県市長会会長、九州市長会会長のほか、被爆都市の市長として、日本非核宣言自治体協議会会長、平和首長会議副会長などを務める。好きな言葉は「一隅を照らす」「人間万事塞翁が馬」。現在は、長崎地域力研究所代表などを務める。

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