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連載コラム

連載コラム

広報って何? 悩める広報担当者の右往左往

執筆 : 田上富久(前長崎市長)

公開日 : 2026年3月18日

職員時代に13年6か月にわたって広報を担当。その後16年に及ぶ市長在任中も広報の大切さを実感してきた前長崎市長・田上富久さんによるエッセイです。

第32回(最終回) 今と未来 根っこと幹

今と未来の話

このコラムも今回で最終回となりました。正直言って30 回以上も書くことがあったことに自分でも驚いています。おかげで、広報担当者としての経験が自分にとってどんなに大事なものだったかを、改めて感じることができました。
実は、書きながらいつも不安に思っていたことがあります。それは、このコラムが一人の広報経験者の思い出話と受け止められるかもしれないということです。若い現役担当者の皆さんにとっては、見たことのないレイアウト用紙の話が出てくるのですから、“昔話”と受け止められてもしょうがないですね(笑)。
でも私がこのコラムを通して後輩の皆さんにお伝えしたかったのは、昔のことではなく、まさしく今と未来との向き合い方のことでした。最後に、そのことについてお話ししたいと思います。

 

 

幹づくりこそ真骨頂

このコラムにたびたび登場した“広報の木”のたとえを思い出してみてください。まちやそこに住む人たちへの“思い”が根、「今、何を、どんなふうに伝えるか」についての“考え方”が幹、それを表現する“手法や技術”が枝。この三つがしっかりしていると広報の木にいい花が咲く、というたとえです。
最初は“枝”に夢中だった私ですが(第2回「真似は王道」)、そして枝は花にすぐに結びつくとても大事なものですが、実は私がこのコラムを通じて最もお伝えしたかったのは、“根”と“幹”の大切さです。これこそが広報担当者の仕事の本質だからです(第13回「私は何のプロ?」)。
ただ、根と幹には大きな違いがあります。根は、まちが違っても時代が変わっても変わらない性格のものですが、幹はまちによって違うだけでなく、同じまちでも時代によって変化するもの、という点です。
私は根の大切さを全国の広報仲間から教えてもらいました。でも、幹はまちによって時代によって違うので、自分で探求し続けるしかありませんでした。でもやってみると、どちらもスタートは「まちを知ることから」でした。時間をかけて自分のまちを知り、人を知り、市民と行政との関係の時代による変化を感じ取る中で、少しずつ根と幹ができていきました。

 

 

問い続けることが大事

一つ例を挙げましょう。私が二度目の広報課で見つけたのは「まちに関心をもってもらう」という広報の新しい幹でした(第20・21 回「のびしろ発見」)。それは広報担当を一度離れたことで、偶然見つけたような気がしていました。でも、その背景には明らかに社会の変化がありました。
市民には三つの側面があります。納税者、主権者、担い手です。納税者としての市民は、市民サービスの受け手になります。主権者としての市民は、選挙で首長や議会のメンバーを選ぶだけでなく、委員会のメンバーになったりパブリックコメントに意見を出したりします。そして担い手としての市民は、地域活動を担ったり、行政の協働相手や共創のパートナーになったりします。
このうち、以前は“納税者”としての市民に行政サービスの情報を届ける「お知らせ広報」が中心でしたが、一部では“主権者”に届ける「政策広報」もしっかり行われていました。そして、今はまちを良くする“担い手”としての市民とのコミュニケーションがとても重要な時代になっています。
そう考えると、「まちのことを伝え、まちに関心をもってもらい、一緒にまちをよくしていく」という新しい広報の役割にたどりついたのは、時代の必然だったと思います。外とのコミュニケーションであるシティプロモーションも活発になってきていて、まさに時代に合わせて幹が変わってきている事例だと思います。
時代は変化し続けています(第26 回「コミュニケーションの変質」)。広報をめぐる状況は、これからも変化し続けるでしょう。自分のまちで今、どんな広報が必要なのか、問い続けることが何よりも大事です。
変わらない根っこと的確に変わり続ける幹を持った広報がそれぞれのまちで展開され続けることを、そして、それを目指して自治体の広報担当者の皆さんが挑戦し続けてくれることを願いながら、このコラムを終えたいと思います。
長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。

 

 

執筆者紹介
田上 富久(たうえ とみひさ)

1956年長崎県岐宿町(現・五島市)生まれ。80年長崎市役所入庁。26年7か月の職員時代のうち13年6か月が広報担当。2007年4月長崎市長就任。23年4月まで4期16年務め、その間、長崎県市長会会長、九州市長会会長のほか、被爆都市の市長として、日本非核宣言自治体協議会会長、平和首長会議副会長などを務める。好きな言葉は「一隅を照らす」「人間万事塞翁が馬」。現在は、長崎地域力研究所代表などを務める。

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